『ミナリ』と『ノマドランド』が一騎打ち!? 第93回アカデミー賞受賞結果を大予想

『ミナリ』と『ノマドランド』が一騎打ち!? 第93回アカデミー賞受賞結果を大予想

 史上最も予想が難しいアカデミー賞――それは、2020年の映画界は何か社会的な動きや事件があれば大きく影響を受ける、脆い土壌の上にあったからだ。北米時間の3月15日早朝に発表された第93回アカデミー賞のノミネーション発表からは、本格的なストリーマー(配信事業者)時代への移行、そしてここ数年映画業界で推し進められていた多様性・包摂性を反映した結果が見られた。

 スタジオ別ノミネーション数における、Netflixの35部門、アマゾン・スタジオの12部門、Apple TV+の2部門奪取は、パンデミックによって映画館が1年間にわたり閉鎖されていたことだけが原因ではない。そもそもストリーマーとスタジオにとってのオスカー像の意味は全く異なる。劇場公開収益モデルを採るスタジオにとっては、ノミネーション後に開始されるワイド・リリース(全国公開)で興行収入を上げるためのブースターの意味を持つ。受賞すれば観客はさらに増え、ソフト化やPVOD(サブスクリプション・サービスではない作品ごとの課金配信)で収益を上げることができる。一方のストリーマーにとっての賞レースは、これから作品を共に作ることになる未来のコラボレーション相手との交渉のテーブルで魅力的な勲章をちらつかせることにある。ストリーマーのビジネスモデルではコンテンツがどれだけ加入者を呼び込んだかが重要で、そのためには強い作品を揃え続ける必要があるからだ。アマゾン・スタジオはパンデミック前は劇場公開モデルを導入していたので少し状況は異なるが、つまりノミネーションを得て存在感を示し、潜在的にいる世界中のクリエイターを引きつけることが目的なのだ。受賞に越したことはないが、それよりもノミネーション数で圧倒することが大きな宣伝となる。

 Netflixのここ数年のゴールデングローブ賞(この賞が前哨戦と呼ぶにふさわしいかの議論は別として)とアカデミー賞のノミネーション数・受賞数の変遷は、ゴールデングローブ賞が2019年(アルフォンソ・キュアロンの『ROMA/ローマ』席巻の年)のノミネーション17(受賞5)、2020年(マーティン・スコセッシの『アイリッシュマン』など)のノミネーション25(受賞2)、2021年(『Mank/マンク』『シカゴ7裁判』)のノミネーション42(受賞10)。アカデミー賞では2019年のノミネーション15(受賞4)、2020年のノミネーション24(受賞2)、そして2021年のノミネーション数は35部門と年々積み上げている。ゴールデングローブ賞の半分はテレビシリーズ部門なのでノミネート数・受賞数が増えているのは必然だが、2021年はアカデミー賞でも突出した結果を出している。その裏には、賞レースで評価されるような作家の作品がスタジオでは作られにくくなっている皮肉もあり、この流れが覆されることはしばらくなさそうだ。コロナ禍によりバーチャル授賞式を取り入れたゴールデングローブ賞などの視聴率も低下傾向にあり、「そもそも賞レースとは?」という疑問も突きつけられている。

 毎年多くの議論が起きる演技部門と監督部門のノミネーションにも大きな変化が起きている。4部門20名の候補者のうち9名が有色人種で、主演男優賞と助演男優賞は過半数の3名が有色人種という結果になった。また、昨年は女性監督の活躍が目覚しかったのにも関わらず候補者が全員男性監督だったが、今年はクロエ・ジャオとエメラルド・フェネルの2人がノミネートされている。同部門に女性監督が2名以上ノミネートされるのは史上初で、クロエ・ジャオは脚色賞、編集賞、そしてプロデューサーとして作品賞と同一年に4部門でノミネート、女性で初の快挙となった。この動きは、昨年9月にアカデミー賞を選定する映画科学技術アカデミーが示した作品賞候補の新しい基準にも関係している(参考:ベルリン映画祭は女優賞・男優賞廃止、アカデミー賞は新ルール導入 ハリウッドの多様性と包摂性)。テーマや物語、俳優やスタッフにも多様性と包摂性が求められるこの新基準の履行は2025年度開催の第96回からだが、すでに意識改革の波が訪れたということだろう。また、アカデミー賞に投票する約10000人のアカデミー会員の人種・性別分布も変化している(参考:ゴールデングローブ賞を決める87名の外国人記者協会 老舗組織に突きつけられた独占禁止法違反訴状) 。2020年度の新会員は68カ国819名で、45%が女性、36%が有色人種、49%がアメリカ人以外の出身、2019年度は59カ国842名、50%が女性、29%が有色人種、2018年度は928人(構成比未公表)と、ここ3年でおよそ25%会員が増えている。昨年の『パラサイト 半地下の家族』(2019年)の快挙から変化は始まっていたのだ。

 スティーヴン・ユァンとリズ・アーメッドの2人がアジア系俳優として初めて主演男優賞にノミネートされたことに沸いた翌日、また悲惨な事件が起きてしまった。アトランタの3カ所で起きた連続銃撃事件の被害者8名のうち6名はアジア系の女性で、昨年から増え続けているアジア系へのヘイトクライムとの関係も疑われている。本稿の冒頭でも書いたとおり、事件や社会現象は賞レースの行方にも大きな影響を及ぼす。これは作品の力が軽視されているからではなく、映画芸術を支える人々にとって社会で起きていることは、作品作りと切り離すことができないからだ。2018年に行われた第89回アカデミー賞で外国語映画賞イラン代表としてノミネートされていた『セールスマン』(2016年)は、すでに『別離』(2011年)で同賞を受賞しているアスガー・ファルハディ監督の受賞は難しいと見られていた。だが、授賞式直前にトランプ前大統領が発出したイスラム7カ国からの入国を禁じる大統領令に抗議し、ファルハディ監督と主演のタラネ・アリドゥスティは授賞式出席を辞退。授賞式でのファルハディ監督の受賞スピーチ「この非人道的な入国規制は、世界を分断し、攻撃や戦争に対する虚偽の正当化を生み出す」の代読には、会場から大きな拍手が贈られた。映画は娯楽だけではなく、国や社会が間違った方向に進んでいたら疑問を呈し、思考を巡らせ対話のきっかけを作るものなのだ。

 最終投票が開始される4月15日から締め切られる20日まで、最後の最後までレースの行方は変わっていくだろう。よって、以下はあくまでも3月半ば時点での受賞予想となる。

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「映画シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる