『ミナリ』と『ノマドランド』が一騎打ち!? 第93回アカデミー賞受賞結果を大予想
脚色賞
『続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画』
★『ファーザー』
●『ノマドランド』
『あの夜、マイアミで』
『ザ・ホワイトタイガー』
ジェシカ・ブルーダーによるルポルタージュ『ノマド:漂流する高齢労働者たち』を原作に、ドラマ化するのではなくノンフィクションの中に俳優を存在させて再構築する手法は、クロエ・ジャオとフランシス・マクドーマンドによる新しいストーリーテリングの発明だ。脚色の可能性を広げたふたりを祝し、ジャオに栄冠が授けられるだろう。戯曲が原作の『ファーザー』も、映画ならではの時間軸構成が評価を受けそう。
脚本賞
『Judas and the Black Messiah(原題)』
『ミナリ』
●『プロミシング・ヤング・ウーマン』
『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』
★『シカゴ7裁判』
「2020年を代表する映画の1本なのに、あげられる賞がない!」となりそうな『シカゴ7裁判』だが、脚本賞なら遜色ない。対抗になるとすれば『プロミシンング・ヤング・ウーマン』。タイムリーな題材を先が想像できない脚本で描いたエメラルド・フェネルの才能は高く評価されるだろう。
監督賞
トマス・ヴィンターベア『アナザーラウンド』
デヴィッド・フィンチャー『Mank/マンク』
リー・アイザック・チョン『ミナリ』
★クロエ・ジャオ『ノマドランド』
エメラルド・フェネル『プロミシング・ヤング・ウーマン』
トロント映画際観客賞次点の『あの夜、マイアミで』のレジーナ・キングがノミネートされていたら対抗になっただろうが、この並びであればクロエ・ジャオ一択。アジア系初、女性監督で2人目(『ハートロッカー』(2009年)のキャスリン・ビグロー)という評価ではなく、前作『ザ・ライダー』(2017年)から作家性を失うことなく新しいことにチャレンジしているジャオ監督は、ハリウッドを代表する監督になるだろう。彼女の次回作が大作の『エターナルズ』というのもスタジオ関係者から好意的に受け取られそう。
作品賞
『ファーザー』
『Judas and the Black Messiah(原題)』
『Mank/マンク』
★『ミナリ』
★『ノマドランド』
『プロミシング・ヤング・ウーマン』
『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』(ダリウス・マーダー監督)
『シカゴ7裁判』(アーロン・ソーキン監督)
現段階では、『ミナリ』と『ノマドランド』の一騎打ちとしか言えない。ノミネーション発表当日までは総合的な観点から『ノマドランド』だろうと予想していたが、3月16日に起きたアトランタでの銃撃事件から、全くわからなくなってしまった。ことあるごとに人種差別を煽った前政権が社会に残した爪痕は大きく、政権移譲されてからもアジア・ヘイトクライムの被害は日に日に増えている。そんな中、パンデミック以前のサンダンス映画祭でデビューした『ミナリ』はじっくりと時間をかけ、この物語が普遍的な移民物語であることを根付かせていった。アイルランド系移民を描いた『イン・アメリカ/3つの小さな願いごと』(2003年、ジム・シェリダン監督)と比較して語られ、アメリカが移民国家であることを思い起こさせる。一方の『ノマドランド』は、アメリカ人(になった人たち)の祖先が抱いていていたフロンティア・スピリットを思わせる人生の選択に、経済・教育・保険を含む社会制度・政治……さまざまなことを考えさせられる。どちらの作品が受賞しても、2020年という稀有な1年を反映した結果になるだろう。
■平井伊都子
ロサンゼルス在住映画ライター。在ロサンゼルス総領事館にて3年間の任期付外交官を経て、映画業界に復帰。
■公開情報
『ミナリ』
TOHOシネマズ シャンテほかにて公開中
監督・脚本:リー・アイザック・チョン
出演:スティーヴン・ユァン、ハン・イェリ、ユン・ヨジョン、ウィル・パットン、スコット・ヘイズ
配給:ギャガ
上映時間:115分/原題:Minari
Photo by Melissa Lukenbaugh, Courtesy of A24
公式サイト:gaga.ne.jp/minari