シリアルキラーものの傑作! 『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』に宿る孤独とユーモア

『フリッツ・ホンカ』が傑作の理由

 『ハウス・ジャック・ビルト』や『テッド・バンディ』、『永遠に僕のもの』、そして配信ドラマ『マインドハンター』など、日常的に殺人を犯す“シリアルキラー”を題材とした映像作品が、最近目立っている。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でも、自身の崇拝者に殺人を命じていたチャールズ・マンソンによる事件が描かれていた。

 そんなちょっとしたシリアルキラー・ブーム(?)のなか、“傑作”といえる本格的な殺人鬼映画が公開される。30代の時点で世界三大映画祭全ての賞を獲得した、天才的な映画監督ファティ・アキンが、ドイツに実在したシリアルキラーを題材に撮り上げた『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』である。

 フリッツ・ホンカは、1970年代に複数の娼婦たちを殺害し、さらにその死体を切り刻んで、屋根裏の部屋の隅に押し込んでいた凶悪な人物である。本作は、ホンカを題材にしたベストセラー小説を基に、残忍な犯行を重ね続けるホンカの姿を追いかけていく。

 アルコール依存症のホンカは、寂しい者たちが集う、行きつけのバー“ゴールデン・グローブ”でいつものように酒をあおっている。酒を飲むと欲望が肥大化し、バーの女性客に酒をおごって繋がりを持とうとする。だが、女性たちには「不細工すぎる」と一蹴されてしまう。

 本作の主演を務めたヨナス・ダスラーは、実際のホンカの写真とは似ても似つかない、23歳の美しい俳優だが、ここでは頭髪が薄く、斜視で鼻が潰れ、背中を丸めた怪異な容貌の殺人鬼を演じる。その姿は、『ノートルダムの鐘』のカジモドを想起させられる。

 女性たちに拒絶されて気持ちの収まらないホンカは、年老いたアルコール依存の娼婦を見つけて、酒があるからと、強引に家に連れ込んだ。ホンカは、彼女に娘がいることを知ると、「娘をホンカ氏に差し出します」という内容の誓約書にサインしろと迫る。最悪な人物だ。そして、悪夢のようなシチュエーションである。

 誰もが楽しめるような作品とは言いづらい。中年男のむきだしの欲望や暴力、それに服従したり殺害される、老いた女性たちの姿は、人々が普段見たくないと思っているような、社会の暗い側面を次々と見せつけてくる部分があるからだ。しかし、それこそが本作の最も力強い点でもある。“見たくないもの”のはずなのに、目が離せなくなっていくのである。

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