年末企画:麦倉正樹の「2019年 年間ベストドラマTOP10」 “多様性”から一歩踏み出した関係性の結び方

麦倉正樹の「2019年ドラマTOP10」

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2019年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は地上波および配信で発表された作品から10タイトルを選出。第5回の選者は、無類のドラマフリークであるライターの麦倉正樹。(編集部)

1.『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)
2.『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』(NHK総合)
3.『俺の話は長い』(日本テレビ系)
4.『きのう何食べた?』(テレビ東京系)
5.『時効警察はじめました』(テレビ朝日系)
6.『まだ結婚できない男』(カンテレ・フジテレビ系)
7.『詐欺の子』(NHK総合)
8.『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)
9.『べしゃり暮らし』(テレビ朝日系)
10.『本気のしるし』(メ~テレ系)

 昨年も同カテゴリーのベスト選出に参加したが、改めてそのリストと比較してみると、正直今年は個人的に、“前のめり”になって観たドラマが少なかった印象がある。「好きな役者が出ているから」以上の意味と強度を持つドラマが、果たして今年、何本あっただろうか。そのなかでも『いだてん』は、そこに投じられた労力や熱量、入念な準備、キャストの数など、あらゆる意味で突出していた。何よりもまず、東京オリンピックを来年に控えた今、この国とそこに生きる人々が、かつて「オリンピックに対して、どのような思いを抱いてきたのか」を振り返ることが、これほどのアクチュアリティをもって胸に響いてくることに衝撃を受けた。改めて、宮藤官九郎をはじめ、スタッフ一同に賛辞を送りたい。ただし、「落語」をめぐる挿話には、少々疑問をもったことも否めない。たたでさえ重層的で複雑な物語に「落語」の部分がある種の“とっつきにくさ”や“混乱”を与えてしまったのではなかったか。少なくとも自分はそう感じた。

 『腐女子、うっかりゲイに告る。』もまた、非常に感銘を受けたドラマだった。セクシャリティの問題を扱ったドラマではあるものの、それを超えた青春物語としての“瑞々しさ“と“痛み”が、確かにそこにはあった。主演の金子大地と藤野涼子を讃えたい。映画『ボヘミアン・ラプソディ』の大ヒットを受けたタイミングということもあり、全編で使用されたクイーンの楽曲も非常に効果的だった。そして、同種のドラマというとやや語弊があるが、同性カップルの日常を描いた『きのう何食べた?』も、非常に丁寧に作られたドラマとして、強く印象に残っている。西島秀俊と内野聖陽がキャスティングされた時点で大きな反響のあったこのドラマだが、ことさら気負うことなく、ごく自然体で臨んだように思える彼らの好演は、同性カップルの“リアル”以上に、人としての当たり前の“気遣い”や“誠実さ”といったものを浮かび上がらせており、その意味でも、非常に意義深いドラマだったのではないだろうか。

(c)「きのう何食べた?」製作委員会

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