『わたしは、ダニエル・ブレイク』ケン・ローチ監督、格差問題にコメント「変化を求めるべき」

ケン・ローチ監督、格差問題にコメント

 3月18日に公開される映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』より、ケン・ローチ監督のオフィシャルインタビューが公開された。

 本作は、第69回カンヌ国際映画祭で最高賞となるパルムドールを受賞した人間ドラマ。心臓の病で仕事ができなくなってしまったダニエル・ブレイクが、身寄りも仕事もないシングルマザーのケイティとふたりの幼い子供と出会い、家族のような絆を築き上げていく模様を描き出す。

 前作『ジミー、野を駆ける伝説』を最後に映画界からの引退を表明していたローチ監督だが、現在のイギリスや世界中で拡大しつつある格差や貧困にあえぐ人々を目の当たりにし、今どうしても伝えたい物語として制作されたのが本作だ。ローチ監督は「脚本家のポール・ラヴァティと私は同じような話をいく度も耳にしていました。暖かい部屋か食べ物か、どちらかひとつを選ばなくてはならない人たち、生活保護をすべて失って生きていけなくなった人たち、屈辱のあまり自殺を図る人たち、その他にも実にたくさんの話を聞きました。そこでリサーチを始めた結果がこの映画です」と制作のきっかけを明かす。

 結果的に本作は、本国イギリスにおいて、ローチ監督作品の中で最大のヒットとなった。ローチ監督は「驚いています。私たちにとっては小さな作品ですから、大きな驚きでした。これまでにはない反響です」と率直な感想を述べながら、「おそらく、特にヨーロッパ全土で、そしてたぶん日本でも、人々が同じ状況に苦しんでいるのに、誰もそれを話題にしてこなかったからではないでしょうか。真のポリティカル・コレクトネスとは自由市場に楯突かないこと、などと言う人がいます。私たちを殺しつつあるのが自由市場なのに、それを指摘するのは“政治的に正しくない”のです。誰も口に出さなくとも、この映画が証明しています。自由市場は私たちを殺す、私たちはそれを変えなければならない、ということを」とヒットに繋がった理由を分析。

 また、自身が好きな映画については「50年代のイタリア映画と60年代のチェコ映画」と明かし、「若い頃に見た映画が一番記憶に残っています。『自転車泥棒』は非常に影響力のある作品です。イタリア人監督ジッロ・ポンテコルヴォの『アルジェの戦い』も美しい。そして本当に面白い映画としていつも挙げるのは、イジー・メンツェル、ミロス・フォアマンら、その他同時代の監督のチェコの映画です」とコメント。「黒澤明監督は偉大です」と続け、「日本映画はスタイルが全く違っており、ヨーロッパの社会派から見ると異文化を発見する思いです。とても印象深く、心を動かされる作品ばかりです。私たちにとっては想像を絶するのですが、それが良いのです。映画製作のアイデアの幅を広げてくれますから」と日本映画についても言及した。

 今後の映画制作については、「今はまだありません。しばらく休みを、春になったら考えるかもしれませんが、まだ分かりません」と語り、「本作で起こる出来事と、日本でも起こっていることの間にある共通点に気づいていただければと思います。先進工業諸国ならどこでも、似た問題に苦しんでいるのではないでしょうか。政治的には、資本主義経済を支持する政府を持つ国々は、労働者階級を今いる場所に留まらせる手段を編み出します。貧しく、助けが必要な人々を痛めつけるシステムがその一例です。英国の政府はその残忍性を分かっていてやっています。その施策がどのような結果を招くか、政府は完全に認識していますし、日本にも同じ状況が見られるかもしれません。もしそうであれば、私たちは変化を求めるべきです。でも今しばらくは、ケイティ、ダニエルやその他の登場人物たちと知り合いになってください」と、日本のファンにメッセージを送っている。

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■公開情報
『わたしは、ダニエル・ブレイク』
3月18日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
監督:ケン・ローチ
脚本:ポール・ラヴァティ
出演:デイヴ・ジョーンズ、ヘイリー・スクワイアーズ、ディラン・フィリップ・マキアナン、ブリアナ・シャン、ケイト・ラッター、シャロン・パーシー、ケマ・シカズウェ
提供:バップ、ロングライド
配給:ロングライド
(c)Sixteen Tyne Limited, Why Not Productions, Wild Bunch, LesFilms du Fleuve,British Broadcasting Corporation, France 2 Cinema and TheBritish Film Institute 2016
公式サイト:http://danielblake.jp

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