菊地成孔がキム・ウビン主演『技術者たち』を解説「『ルパン三世』実写版と併映で観るべき」

菊地成孔『技術者たち』を解説

新・四天王

 韓流に限らず、今はどんなカルチャーもタコ壺化していて、そのタコ壺の中にいる人にとっては説明無用なんですが、本作の主演のキム・ウビンは、韓流の<新・四天王>って言われています。キム・ウビン、イ・ミンホ、キム・スヒョン、イ・ジョンソクという4人で、みんな20代。早くから売れていた人も、キム・ウビンみたいにギリギリまで売れなかった人などいろいろいます。<四天王>なんちゃってちょっと昭和っぽい訳ですけど(笑)、端的に韓国は随分と昭和なんで。

 映画キャリアはまだ数本だと思うんですけど、韓国映画史に残ると言われる『友へ チング』という映画の続編『チング 永遠の絆』という、チング(親友)たちの子供たちが出てくる映画にも主演していますし、現在、小屋によっては、同じウビン主演の『二十歳』という作品と併映になっています。

 こちらは所謂、童貞喪失青春コメディーみたいな奴で、もう全然、『技術者たち』とは真逆の映画であり、真逆のキャラを演じていますが、これが何と、同じ年の作品で併映、主演作が年に2本以上ある訳ですね。これまた昭和っぽいですが。

<完璧な脚本>とか簡単に言うな。これが完璧

 今回取り上げる『技術者たち』は、『オーシャンズ11』とか、今やクラシックスである『黄金の七人』等のような「娯楽犯罪映画(知的でお洒落な奴)」で、主人公は天才的な犯罪者なんですが、カッコ良くてスマート、これがキム・ウビンで、20代にして『オーシャンズ』のジョージ・クルーニーなんですね(ルパン三世とも言えます)。

 とにかくジャンルムーヴィーとして無駄がなく、脚本は完璧としか言いようがありません。犯罪者チームと、それ以外(この点だけですら、ネタバレになるので曖昧にしか書けないのです)の、徹底的な知恵比べ以外、恋愛とか主人公の過去だとかは、もうちょっとした香りぐらいにしか描かれません。1秒も漏らさず完全犯罪の知的ゲームだけが展開します(韓流娯楽映画に欠かせない、ヒーローとヒロイン双方の「お約束シャワーシーン/バスタブシーン」も、最低限の一瞬だけです←とはいえ一瞬たれども、ちゃんとしっかりやってくれます)。

 なので、困ってしまうのは、とにかくストーリーを1行もしゃべれない作りになってます。全部がネタバレ。「え、1行もしゃべれないの?」と驚くかもしれませんが、例えばオチがネタバレとか、真ん中の展開がネタバレとかじゃなくて、もうファーストシーンから全部関係がある。映画が始まった瞬間から全部が伏線になっています。例えば『007 スペクター』や『キングスマン』などは、肝心なところを言わなければ、ある程度話の筋を言っても大丈夫だけど、これはもう本当に1行も喋れない。

 <この種の話ももう飽和状態にあって、このネタはあれとこれの抱き合わせだとか何とか、複製マッシュアップ再生産が続くしか無いのだ、もうこれからの世の中は>といった世界観が蔓延する中、「まだこんな手があったか」と思わせる事で、作劇内で生じる以上の、圧倒的な痛快さを持っています。ノベライズしたら何らかの賞を受賞するでしょう。本屋さん的に言うと「このサスペンスが凄い」という感じでしょうか。

 というのも、原作はなく、監督のオリジナル脚本だからですが、監督が「この種の映画」のマニアだという事が、猛烈と言って良い圧力で伝わって来ます。

 そして、その事が、所謂タランティーノ型というか、引用やオマージュではなく、「山の様な<過去の元ネタ・パッチワーク>のてっぺんに、新ネタを出した」という驚き、前述の、停滞した世界観の打破、という形で示されます。本作は、それ以上でもそれ以下でもない。ただそれだけに結晶化された作品です。比較対象にして申し訳ないんですが、「相棒」も健闘してるんだけど、格が違う。と言えば、大体どれぐらい凄いかお解りに成るかと。

個性派にして正統的なスター。キム・ウビン

 韓流じゃない人に説明すると、キム・ウビン以外の四天王の3人というのは、普通にイケメンなんですよ。アジアン・イケメンで、日本でも全然そのまま通用する。まあ、いつも言っておりますように、兵役があるので、全員が完璧な長身の細マッチョで、そこもまた昭和っぽいんですが、星野源さんみたいな方とか、加瀬亮さんみたいな方とか、ひ弱な文学青年みたいな感じの人がいないんですよ。全員がアクション映画のスターになれる。どんな可愛い顔でも、脱ぐとUFCの選手みたいなんですね。

 そんな中、これは熱心なペン(ファン)の方々に叱られてしまうかもしれないけれども、キム・ウビンは異形の人というか、身長も巨人症ギリギリというほど高いし、顔もすごく個性的です。欧米で言うと、ベネディクト・カンバーバッチに近い。まあ韓国では当たり前のことだから、カムアウトはしていないと思うんですけど、恐らく相当顔にオペレーションが入っている筈で、初期作品なんか観ると、深海魚だとかフランケンシュタインの怪物みたいな感じなんですね(そういえばカンバーバッチは今、舞台でフランケンシュタインの怪物役をやってるそうですが)。でも凄くスター性があって、本作でも全く無理なくスーパー二枚目を楽々と演じきっています。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる