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カンヌ国際映画祭「ある視点」監督賞受賞作

黒沢清、『岸辺の旅』インタビュー ジャンル映画から解放された、新境地を語る

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 あの黒沢清がラブストーリーを撮ると、こんなにもスリリングで怖い作品になる! 今年のカンヌ映画祭ある視点部門で日本人初の監督賞を受賞した『岸辺の旅』は、「夫婦の愛」を描いた普遍的な感動作でありながら、黒沢作品でしかあり得ない目が眩むような映画的興奮に満ちた作品となっている。なにしろ、その夫婦の片方である夫があっけなくこんな告白をするところから、物語は始まるのだ。「俺、死んだよ」。

 『岸辺の旅』は幽霊の夫と、夫が幽霊であることを受け入れた妻、その二人の文字通り「旅」の映画だ。しかし、黒沢監督は「ロードムービーというほどおこがましいものではない」と言う。その真意はどこにあるのか? そして、『岸辺の旅』を特別な作品としている最も重要なファクターとは何だったのか? (宇野維正) 

「自分はロードムービーを撮るにはまだまだ未熟」

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——今回の『岸辺の旅』という作品は、これまでの黒沢清作品のエッセンスが濃密に入っていながら、これまでの黒沢清作品とはまったく異なる新たな感覚に満ちている、非常に興味深い作品でした。ご自身としては、これまでのフィルモグラフィーの流れの中で今作をどのように位置付けているのでしょう?

黒沢清(以下、黒沢):客観的にそれを自分で説明するのは難しいのですが、一にも二にもこの原作に出会えたことが大きかったと思います。かなりの部分、原作に沿って撮影した作品で。もしそこにこれまで自分がやってきたことのエッセンスが入っているとしたら、自分の作品の延長上に表現できる要素がこの原作にあったのだと思いますし、これまでとは異なる新しい要素があったとしたら、それもこの原作にあったものだと思います。それが、ちょうど均等に混じっていたのかもしれませんね。もっとも、そんなことを思ってこの原作を映画にしようと思ったわけではないですけど、撮影をしていくうちに、多分そういうことなんだろうとわかってきました。今回、不思議なくらいやりやすかったんですよ。やりやすかったのに、「こんなシーンを撮るのは初めてだな」「こんなセリフが自分の作品に出てくるのは初めてだな」と、気づかされることが多かったですね。

——確かにベッドシーンとか、これまでの黒沢さんの作品でほとんど記憶にありません。

黒沢:そうなんですよ(笑)。

——初めてという意味で、最も強く意識したのはどういう部分ですか?

黒沢:撮影に入る前からわかっていて、一番ビクビクしていたのは「旅」の映画だということです。ロードムービーというほどおこがましいものではないにせよ、場所が次々と移り変わっていく。主人公の2人は変わらないんですけど、ある時がくると2人は突然他の場所に移動して、風景も登場人物もガラッと入れ替わる。「果たして、これが『旅』に見えるのだろうか?」という不安がありました。でも、普通だったら大変なことになるような状況でも、毎回都合のいいところで舞台が移動して、またゼロから語り始めることができる。そういう意味で、「旅」という形式はとても都合がいいということに、撮影に入ってから気がつきました。「旅」だったらいろんなことが許されるんだって。それは、とても新鮮な体験でしたね。

——「ロードムービーというほどおこがましいものではない」とおっしゃったように、この作品では移動の過程をカメラに収めることにはあまり執着してませんよね。

黒沢:それは試行錯誤したところだったんですよ。移動中の2人もちょっと撮ってみたりもしたんですけど、移動の過程というのが一番撮るのが難しく、また作品全体の中でどう扱えばいいのかという点でも難しかったんです。というのも、日本国内ですからね。移動といっても、その距離も時間も風景の変化も知れているわけですよ。

——なるほど。砂漠の真ん中をオープンカーで走るわけではない(笑)。

黒沢:そうです。まぁ、沖縄から北海道に行くとかだったら、まだ描きようもあったのかもしれませんが、この作品では電車やバスで本州のそんなに離れてないところを移動するだけなので。それなりに撮ってはみたんですけど、本編で使っているのはごく僅かなシーンだけです。そういう意味では、自分はロードムービーを撮るにはまだまだ未熟なんでしょう。どうやったら登場人物たちの移動をおもしろく、印象的に撮れるのかというのが、まだよくわかってないのかもしれません。

——そもそも、日本でロードムービーを撮るのは難しい?

黒沢:特に、交通網がこれだけ発達して、どこに行くのもあっという間に行けてしまう現代が舞台の場合は難しいのかもしれませんね。

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