バーチャルシンガー・花譜が語る、ファレル・ウィリアムスの魅力 「唯一無二の存在」

バーチャルシンガー・花譜が語るファレル

 グラミー賞に輝く音楽プロデューサーにして、シンガー、ファッションデザイナーなど多方面で才能を発揮する世界的マルチアーティスト、ファレル・ウィリアムスの人生を映画化した『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』が4月4日より公開された。

 1973年にアメリカ・バージニア州にあるバージニアビーチで生まれたひとりの音楽少年が、ワールドワイドにムーブメントを起こした「Happy」をはじめ、Daft Punk「Get Lucky」やケンドリック・ラマー「Alright」など、プロデューサーとして数々のヒット曲を世に送り出し、世界的ヒットメーカーとなるまでの軌跡を全編レゴ®アニメーションで描いている。

映画『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』日本版予告編

 今回、ファレルが設立したファッションブランド・ICECREAMと2024年にコラボを果たした、新時代のアーティストである“バーチャルシンガー”の花譜が本作を鑑賞。ファレルの印象や映画の感想を聞いた。

花譜の考える「ファレルが唯一無二の存在」の理由

ーー花譜さんはそもそも普段、どういう映画を観るんですか?

花譜:映画は好きでよく観ていて、配信でも感想とかをお話することもけっこうあります。最近は友達の影響でホラー映画を観ることが多いですね。直近だと『ロングレッグス』っていう児童連続殺人鬼を描いた作品だったり、人魚の姉妹がストリップバーにスカウトされて人気者になっていく『ゆれる人魚』というホラーファンタジーも面白かったです。

ーーミニシアター系の映画をよく観ているんですね。ちなみに生涯ベスト、影響を受けた映画みたいなものはありますか?

花譜:好きな映画を5つ考えてきたんですけど、まずは韓国の恋愛映画で、刑務所から出所した男性と事故で脳性麻痺になった女性の恋を描いた『オアシス』が好きです。あと、『佐々木、イン、マイマイン』『君の名は。』『CUBE』『ミッドナイトスワン』とか……特定の好きなジャンルみたいなものはないんですけど、人と人との関係性、そこで生まれる名前のない繋がりみたいなものを感じる映画がすごく好きで。歌詞を考えている時に、映画の情景がパッと思い浮かぶ、みたいなこともあります。

ーーヒューマンドラマという意味では、今回の『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』も共通しているように思います。本作のお話を伺う前に、まずはファレルとの接点みたいなものはいつ頃あったんですか?

花譜:私がファレルのことを知ったのは、ICECREAMというファレルのアパレルブランドとコラボしてグッズを作った時です。でも、それ以前にもファレルが作ったとは知らずに「Happy」や「Get Lucky」(Daft Punkとのコラボ曲)とか、耳にしたことのある曲はたくさんありました。でも、ファレルの人生については全然知らなかったので、この映画を観て「ファレルってこういう人だったんだ」と初めて知ることばかりで驚きました。

ーー「Happy」がリリースされた当時、花譜さんはまだ小学生ですもんね。今作は自伝的ドキュメンタリーですが、全編レゴ®︎ブロックで作られた異色の作品です。

花譜:映画を観てレゴって無限の可能性があるものなんだと思いました。本当になんでも作れちゃう。空や雲、海とか全部誰かが作ったものとしてそこに存在している、みたいなところはバーチャルと似通ってる部分でもあるのかなとも思いましたね。個人的には、車の煙とか、海の波とか、あとコーヒーを注ぐ時にブロックがパパパパーって飛び散ってるところとか、個体じゃないものをレゴで表現するときの独特な動きがすごく可愛かったです。あと、人型のレゴブロックは基本的には同じ形だと思うんですけど、こんなに一人ひとりのキャラクターや個性を豊かに表現できるんだと思いました。身振りや手振りだけでなく、チャドが唇を噛んでる様子とか、表情の癖みたいなものも細かく表現されていて驚きましたし、これはコマドリなのか、CGなのか、どっちなのかすごく気になりました。

ーーたしかに、どっちなんでしょうね……。ファレルの人生については、どんな印象を持ちましたか?

花譜:ヒップホップやロック、ポップスとか、さまざまなジャンルを自分の中に取り込んでどんどん音楽の形を柔軟に変えていっているのがすごいなと思いました。最初の頃はヒップホップのコミュニティにいたと思うんですけど、それでもファッションを含めていわゆるヒップホップスタイルには染まらなかった。自分自身の中にある文化や感覚を大事にして、それをつなぎ合わせてオリジナルにしていくという姿勢が音楽からも、映画からも伝わってきました。だからこそ、ファレルは唯一無二の存在なんだな、と思いました。

花譜の音楽活動の背中を押した存在

ーー映画は幼少期の頃から現在までを振り返る形で進行していきます。貧困街に生まれたファレルの生い立ち、音楽に溢れた生活環境や音が色で見える共感覚の持ち主だったことなど、彼の幼少期についてはどんな印象を持ちましたか?

花譜:ファレルが空想好きだったり、少し変わった子だったことを家族が責めずに、個性を大事にしてくれていたことが印象的でした。勉強は苦手だったけど、他の部分でぐんぐん伸びていく能力をファレルは持っていて、それを尊重してくれる環境があったことが素敵だなって。やっぱり、学校でやることができない人はダメなやつ、と言われがちな気がして。みんなができることができない=ダメ、ではなくて、その子が持っている才能を若いうちに大人や周りにいる人が見つけてあげることが大事なんだと思いました。ファレルも、おばあちゃんの後押しがあったから、音楽を始めたと描かれていましたし。

ーーファレルの音楽の原体験として、おばあさんの存在がすごく大きかったんですよね。花譜さんは子供の頃、自分のやりたいことを肯定してくれたり、背中を押してくれるような存在は周りにいましたか?

花譜:ずっと自分の歌を動画投稿サイトに投稿したいと思っていて、実家で暮らしていたときに家族兼用のパソコンにマイクを繋いで録音をしようとしたら、パソコンが壊れちゃうかもしれないからという理由で親に止められたことがあって。その当時、周りで同い年の子とかが活動を始めていることもあって、すごく悔しくて、悔し泣きしていたんです。そしたら、お姉ちゃんが音楽配信アプリを教えてくれて、iPadに入れてくれて。そこで歌うようになって、今のプロデューサーさんに見つけてもらえることができました。

ーーファレルにとってのおばあさんが、花譜さんにとってのお姉さんだったわけですね。お姉さんも花譜さんには歌を続けてほしいみたいに思っていたんですか?

花譜:それはどうなんだろう……たぶん自分が泣きまくっていたからだったんじゃないかな。

ーーいやいや、そんなことはないんじゃないですか。

花譜:でも、お風呂や車でよく歌っていたんですけど、「うるさい!」って言われてばかりだったので、そうだったと思います(笑)。

ーー(笑)。ファレルが曲を本格的に作り始めてからは、常に新しい音楽を探求する姿が描かれていて、枠にとらわれたくないというファレルのアーティストとしての信念が感じられました。花譜さんも新しい音楽や表現を探す、みたいなところへの共感はありましたか?

花譜:音楽作りというよりは、歌に関しては強くあるかもしれないです。例えば私はオリジナル曲の他に、カバー動画や歌ってみたをYouTubeに投稿しているのですが、自分の声、解釈で、したいことやできることを、見つけて歌に出力していくのがとても楽しいです。

ーーカバーの場合、みんなが同じ楽曲を歌うため、歌い方の表現や声質にフォーカスされますもんね。

花譜:そうですね。人のカバーを聴いてここはこういう風に歌うんだとか、この歌い方は真似できないなとか、気づきだったり、悔しくて燃えたり、得ることが沢山あって。同じ曲でも歌う人によって印象が違くなったりするのが面白いです。

ーーそういったアーティストの側面だけでなく、ファレルの人間性も伝わってきましたね。

花譜:音楽会社に自分のテープを売り込むとき、電話番だったアシスタントの人に何度も電話して、友人として仲良くなっていくみたいなシーンとか、すごく好きでした。ああいうところがファレルの核にある性格の良さ、根の良さなんだろうなって思いましたね。

ーー花譜さんの中で特に印象に残っているシーンはどこでしたか?

花譜:そのアシスタントの人がファレルの音楽を初めて聴いたときに、良すぎて首がとれたシーンです。ふふ、と思わず声に出して笑っちゃいました。あのコミカルな演出はレゴならではだなって。あと、ライブやパフォーマンスのシーンも見応えがありましたし、ファレルの共感覚を表現するシーンも音と一緒に色が弾けていくみたいな表現は観ていて気持ちよかったというか、ポップで可愛かったです。

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