微分・積分がなければ、現代社会は成り立たない 高校時代に挫折した人にこそ読んでほしい『読むだけでわかる』シリーズ

挫折した人に贈る「読むだけ」の微積分

 「微分・積分」と聞いて、高校時代の苦い記憶がよみがえる人は少なくないだろう。謎の記号が登場し、何のためにこんな計算をしているのかもよくわからない。

 しかし、微積分は現代社会を支える重要な数学でもある。天気予報の数値シミュレーション、映画やゲームのCG制作、AIモデルの学習など、私たちの日常を支える技術の多くが、微積分なしには成り立たない。「あの時ちゃんと理解しておけばよかった」と後悔したことがある人も多いだろう。

 2026年1月・2月にブルーバックスから相次いで刊行された永野裕之の『読むだけでわかる「微分」 考え方から証明、そして大学数学まで』『読むだけでわかる「積分」 理解すれば、本質が見えてくる』は、まさにそうした読者に向けられた本だ。タイトルの通り「読んでわかる」ことに徹したつくりが大きな特徴で、微積分をどう捉えればよいのか、その発想の道筋を教えてくれる。

基礎から大学数学まで、段階を追って導く構成

永野裕之『読むだけでわかる「微分」 考え方から証明、そして大学数学まで』(ブルーバックス)

 両書はともに、入門編・中級編・上級編の3編構成になっている。最初から数式を並べて抽象的な議論に踏み込むのではなく、読者が「そもそも何の話をしているのか」を見失わないよう、段階を刻みながら理解を導いていく構成だ。

 微分の入門編では、「関数とは何か」「変数や未知数とは何か」といった基礎的な話からスタートし、「微分とは何か」という考え方そのものを数学が苦手な人にも伝わるようにほぐしていく。続く中級編では具体的な計算方法に踏み込んでいき、三角関数、指数関数、対数関数などの微分についても解説する。中級編まで読めれば高校数学の範囲はおおむね見通せるだろう。そして上級編では、「連続」とは何かという問題にまで踏み込み、理系大学生の定番つまずきポイントである「ε-δ(イプシロン・デルタ)論法」を含む、大学数学の入口に位置する内容まで視野に入れている。

 積分の入門編では、面積という身近な題材から出発して、積分の発想を直感的に掴ませる。ばらばらの「部分」を積み上げ、そこから全体像を捉えるという積分のものの見方が、ここで見えてくる。中級編では、定積分や微積分学の基本定理など、高校数学で核心となる内容へ進み、微分と積分がどう結びついているのかを整理していく。さらに上級編では、無限に広がる対象や高次元の量、ガンマ関数のような話題にも触れ、積分という道具が持つ射程の広さを示している。学校で習った「計算手順」としての積分が、世界を理解するための方法として見えてくる。

「読者がどこでつまずくか」を熟知した細やかな配慮

永野裕之『読むだけでわかる「積分」 理解すれば、本質が見えてくる』(ブルーバックス)

 この2冊の良さは、説明の順序だけではない。随所に例え話を挟み込み、読者が置いていかれないよう工夫されている。また、図表に手書き風のフォントが使われるなど、紙面の雰囲気が堅苦しくなりすぎないような配慮もある。数学書というと、数式が整然と並ぶページを見ただけで身構えてしまう人もいるだろうが、このシリーズは、そうした心理的なハードルを下げるよう意識して作られている。ただやさしい言葉を使っているだけではなく、「読者がどこでつまずくか」をよく知ったうえで橋をかけている印象がある。

 さらにうれしいのは、微積分そのものだけでなく、理解の前提となる周辺事項にも目配りされていることだ。順列・組み合わせ、三角関数、指数・対数といった、学び直しの際につまずきやすいポイントについても説明が用意されている。もちろん、すべてを網羅的に教える辞典のような本ではない。だが、「そこがわからないとこの先が読めない」という箇所をそのまま放置しないため、久しぶりに数学へ戻ってくる読者にもやさしい。2冊を通して読めば、微積分の全体像をあらためてつかみ直すためのよい手がかりになるだろう。

 数学に苦手意識を持つ人の多くは、計算できるか、問題に答えられるか以前に「何を計算しているのか」「何のために式を変形しているのか」が見えなくなってしまう。その状態で問題だけ解かされても、しんどさばかりが先に立つだろう。

 だからこそ、この2冊は、微積分を“無味乾燥な数式の操作”としてではなく、“世界を連続的に捉えるための考え方”として取り戻させてくれる。高校時代に挫折した人にも、しばらく数学から離れていた人にも、まずは一度、ページをめくってみてほしい。微分や積分の計算がすらすらできるようになるわけではないとしても、「何をしようとしている学問なのか」が少しずつ見えてくるはずだ。そしてそのとき、かつて意味不明にしか思えなかった数式の列が、少しだけ違った景色として立ち上がってくるだろう。

■書誌情報
『読むだけでわかる「微分」 考え方から証明、そして大学数学まで』
著者:永野裕之
価格:1,210円
発売日:2026年1月22日
出版社:講談社
レーベル:ブルーバックス

『読むだけでわかる「積分」 理解すれば、本質が見えてくる』
著者:永野裕之
価格:1,100円
発売日:2026年2月19日
出版社:講談社
レーベル:ブルーバックス

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