語りづらい、だから薦めたいーー池井戸潤デビュー作を含む注目の文庫新刊3選

若林踏の文庫時評
毎月、膨大な点数が刊行される文庫本。手軽に楽しみたいけれど、どれを読めば良いのか分からないという方へ向けて「これは要注目」という文庫新刊を3冊紹介するコーナーを始めます。第1回は2026年1月前半(1/1~1/15)に発売された文庫新刊が対象です。ちなみに本連載は月2回更新予定。(若林踏)

まず1冊目は文春文庫より発売された五十嵐律人『魔女の原罪』をご紹介する。本書は単行本刊行時の2023年に行われた「リアルサウンド認定2023年度国内ミステリーベスト10選定会議」で第1位に選出された作品だ。この企画は杉江松恋・千街晶之・若林踏の書評家3名が討議によって、その年に刊行された優れた国内ミステリのランキング付けを行うというものである。討議の模様は当サイトで記事化されているので是非ともご覧いただきたいのだが(杉江松恋×千街晶之×若林踏、2023年度 国内ミステリーベスト10選定会議 栄えある第1位の作品は?)、評者3人が揃って作品の内容を語る時は奥歯に物が挟まったような言い方になっているがお分かりいただけると思う。これはネタばらしをせずに粗筋を説明するのが難しい、つまりは企みに満ちた小説なのだ。出来れば事前知識を全く入れずに読んで欲しいので、これ以上の言及は避ける。著者の五十嵐律人は映画化もされた『法廷遊戯』(講談社文庫)で2020年にデビューし、リーガルミステリの新たな旗手として注目を集めた作家だ。

2冊目の詠坂雄二『5A73』(光文社文庫)も粗筋が紹介しにくい変な小説である。作者の詠坂雄二は風変わりなミステリを書き続ける作家としてジャンルファンには認知されてきた節があるのだが、この『5A73』はテレビのバラエティ番組「アメトーーク!」の「本屋で読書芸人」回で紹介されたことでファン以外にも着目されるきっかけを得た。なお文庫版の巻末解説は番組内で同書を紹介したカモシダせぶんが担当している。「暃」という幽霊文字(実際には存在しないはずなのにパソコンなどには表示される文字)を巡る実に変てこな小説で、これもまた読み味について具体的に言及しようとするとネタばらしに引っかかってしまう作品だ。

連載の初回から紹介しづらい作品ばかりを取り上げてしまった。3冊目はもう少し直球のミステリを挙げておこう。『果つる底なき 新装版』(講談社文庫)は第44回江戸川乱歩賞を受賞した池井戸潤のデビュー作である。池井戸潤と言えば<半沢直樹>シリーズや<花咲舞>シリーズのような痛快なキャラクターものを思い起こす読者は多いだろうが、デビュー作である本書は債権回収を担当していた同僚の死を発端に、銀行内に潜む闇へと迫る主人公を描いた単発のミステリだった。キャラクターの魅力というより謎を煽るプロットや技法で読ませるタイプの作品だが、圧力に抗う個人の闘いを描いている点では後のシリーズキャラクターものと通じる。半沢直樹や花咲舞が活躍するドラマで池井戸作品の魅力に開眼した人は、今回の新装版刊行を機に是非ともデビュー作にも手を伸ばしてもらいたい。











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