『ビリギャル』著者・坪田信貴に聞く、多様な子ども達との向き合い方「そもそも地頭が悪い子というのはいない」


2013年、社会現象的なヒットとなった通称『ビリギャル』、『学年ビリのギャルが 1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(坪田信貴・KADOKAWA)の新作となる『勝手な夢を押しつける親を憎む優等生と、東大は無理とバカにされた学年ビリが、現役合格した話』(サンマーク出版)が12月12日に刊行され、早くも話題になっている。実に12年ぶりの新しい『ビリギャル』。その間、著者の坪田信貴氏は受験生の指導以外に、吉本興業ホールディングスの大﨑洋会長とタッグを組んで、お笑い興行のDX化を進めるなど、多岐にわたる活躍をしてきた。なぜいま『ビリギャル』を世に問うのか? 坪田氏の目指すところを聞いてみた。
多様な子ども達にどう「受験」や「生き方」を伝えていけばいいか

坪田:きっかけは前作の映画で僕を演じてくれた伊藤淳史さんなんです。僕自身は前作で書きたいことはすべて書いたので次を書くつもりはなかったんですが、プライベートでのお付き合いもある伊藤さんから2作目を書かないんですかとおっしゃっていただいたんです。いまだに街でビリギャルの先生と言われることがあるみたいで。前作から時間が経ってセンター試験が共通テストになったり、いろいろ世の中も変わってきて、多様な子ども達にどう「受験」や「生き方」を伝えていけばいいかと相談をいただくことも多いので、新作を書くことを決めました。
ーー12年の間で、具体的になにが変わったのでしょう?
坪田:受験でいえば、センター試験が共通テストになって、思考過程が重視されるようになりました。あとは少子高齢化の流れもあって、子どもがひとりという家庭が増えましたし、AIの登場もありました。社会的には職業の多様性を感じます。たとえば12年前はYouTuberは職業として確立されていませんでしたし、以前のように学校を卒業してどこかの会社に所属せずいきなり起業する人も増えてきて、組織ではなく個人で動くことが可能になりました。オンラインで完結する仕事や、海外移住も増えましたし、生き方の多種多様さが加速したように思います。
ーーその多種多様さは本作に反映されているのでしょうか?
坪田:前作では先生と生徒、一対一でのやりとりでしたが、今回は先生が3人で、生徒が5人登場します。生徒もいわゆる楽天家だったり、芸術家タイプだったり、一歩一歩、着実に歩む子、落ち着きがなくて集中力が続かない子もいます。それぞれの生徒に合わせた指導や対応をしています。でも、子どもに対する考え方で大事なことは、実は本質的には同じだということを描写しています。
ーー今回も実話をベースにした物語です。5人の生徒もモデルがいるとは思いますが、最も印象深かった生徒は誰ですか?
坪田:集中力が続かない健太です。今では教育者としての僕の原点になっています。実際に僕のところに来たときも、さっき食べたお昼ごはんを覚えられないような状態で、正直、大学受験は無理だなと思ったんですが、自分で無理だと決めつけるのもよくない。アメリカの大学の先生とか、いろいろな人に効果的な取り組みを聞いて、実際に試してみたらすごく伸びたんです。
そのタイミングで入試過去問に臨んだら、初めてなのに9割正解して、それをぼくは完全にカンニングだと認識してしまいました。あとでそうではないとわかって、彼に土下座して謝ったんですが、そのときに彼から「先生に伸ばしてもらってありがとうと思っていたのに、カンニングと言われてショックだった。先生は自分のことも信じられないんですね」と言われたんです。生徒を信じていないんじゃなくて、そもそも教えている自分自身を信じていなかったことに気づきました。そのときの学びは、今でも自分の中にしっかり残っています。
親は子どもと伴走する感じで接するのがいい

坪田:僕はそのとおりだと思いました。さやかさんは地頭はいいけど勉強していなかっただけですよねって100万人ぐらいに言われましたけど、そのとおりです。地頭もよかったし、出会った瞬間に虹色に輝くオーラが見えましたって、相手に返すんです。ただ、あなたの娘さんも息子さんもそうですし、親のあなた自身も地頭はいいですよと。そうするとみなさん、うちの子は違うと言うんです。でも、いざいい大学に行くと、今度は地頭がよかったって言うんです。僕に言わせれば、そもそも地頭が悪い子というのはいないんです。
ーーそれぞれタイプが違うだけで、地頭の良し悪しというものはないと。
坪田:ペットボトルのフタを開けてグラスに水を注いでください、という指示の話をしましょう。普通は「ペットボトルの水をグラスに注いで」と言います。でも僕は「目の前に半透明の容器があります。そこに液体が入っています。それをまず見てください。それに対してあなたの利き手ではないほうの手を差し出してください。容器の中間地点を順手でつかんでください。次に胸元まで容器を引き寄せてください。そしてあなたの利き手を容器の最上まで持ってきてつかんでください。そこにふたがあります。そのふたを分離することを目的として、反時計回りに360度以上回転させ続けてください」と、これぐらい言うんです。
なぜなら、「ペットボトルの水をグラスに注いで」だけだと、まずボトルを認識できないことがあり得るんです。利き手でつかんでしまう人、逆手でつかんでしまう人、ボトルのふた部分をつかんでしまう人もいます。そうなると、ふたを開けられません。でも、蓋を開ける正しいやり方を教わりさえすれば、多くの人は同じようにできますよね。これは地頭がいいからできるというわけではなくて、正しいやり方を経験したことがあるかどうかの問題です。勉強も実は、これと同じなんです。
だから、この子はこの部分で間違ったことをやっているとわかったら、そこを修正してあげる。そうすれば、基本的に誰でもできるようになります。特に大学受験での5教科の勉強は必ず答えがあって、その解法があります。勉強って、誰でも同じやり方をやれば必ず解答にたどりつくようにできているので、地頭とか才能とか関係なくできるようになるものなんです。
ーー本作ではそのことがしっかり描かれていると思います。本作では受験生が主人公ですが、その親も重要な登場人物になっています。受験生の親は子どもに対してどのように向き合ったらいいのでしょう?
坪田:受験生の親というのは、ほとんどの場合、子どもに向き合っているように見えて、自分の不安と向き合っているんです。たとえば模試の結果がA判定なのかB判定なのか聞くときも、自分の不安を解消するため。難しそうな大学を目指すと聞けば、落ちて浪人したときの塾代や養育費が心配になります。どれも子どもの不安ではなく、自分の不安なんです。
じゃあ、子どものためにと実際の勉強についてアドバイスしようにも、そもそも内容が高度なので、頑張ってねとしか言えません。たとえば、あなたが会社員だったとして、取り組んでいるプロジェクトのことをなにも知らない上司が、横から「頑張れ」とか「ちゃんとできるのか?」とか、いちいち口を挟んできたら嫌ですよね。受験生の親も同じです。
それならば、むしろ子どもに教えてもらうぐらいのスタンスで接したほうがいいと思います。こちらがあれこれ言うのではなくて教えてもらう。「あの学部の最近の出題傾向はどうなっているの?」とか。子どもがわからなければ、一緒に調べてみて、一緒にプロジェクトに取り組む仲間になるんです。親は子どもと伴走する感じで接するのがいいと思います。
科学と情熱が融合することが大切

坪田:かなり意識しました。前作の後、あちこちの講演に呼んでいただいたのですが、その8割が企業だったんです。リクエストされる内容のほとんどが会社内でのマネジメントについてでした。最近の企業では、Z世代の若い社員にやる気をどう出してもらうか、辞めないでもらうにはどうしたらいいかということを悩まれています。昔は子どもの数が多かったので、競争させてふるいにかけて、残った人間をさらにふるいにかけても、まだそれなりの人数がいました。でも今はふるいにかけると、誰もいなくなってしまいます。
経営者や上司は自分たちがやってきたこと、昭和当時の経験則や経験論で教育しようとするんです。でも、それだと通じないことを理解してきたので、最近はデータやエビデンスを活用するのが流行っています。ただ、それでやると、たとえば孫正義さんのような外れ値、統計において他の値から大きく離れた人間は生まれないんです。個々人に対応するということは、すべて外れ値なんですってなったときに、いかにひとりひとりの性格に合わせて対応するか。会社もなるべく多くの人に残ってもらおうという世の中になってきたので、この作品のそれぞれの生徒への対応の仕方は参考になると思います。
ーー子どもに限らず、教育の仕方も変わってきているのですね。坪田さんは受験生の指導以外にもさまざまな活動をしていますが、それらに一貫しているものはなんでしょうか?
坪田:まず、僕の信念として、科学と情熱の融合というものがあります。科学的な理論はすごく大切なんですが、これが正論なんだって言っても人はなかなか動かないので、まずやる気にさせる情熱が大切になってくるんです。ただ情熱だけあって科学理論がないと、間違った方向に突き進んでしまいがちなので、科学と情熱が融合することが大切だと思っています。
それと最近、気づいたんですけど、僕は人をプロデュースするのが好きなんです。その人が気づいていない強みを見つけて、こうしたほうがいいんじゃないって教えて伴走してあげる。これを個人でやっているのが受験生で、組織でやっているのが会社なんです。全部、やっているのはプロデュースなんです。
ーー吉本興業のDX化もお笑いタレントのYouTube展開も同じことに思えます。
坪田:塾で生徒と接しているのと、変わらないんです。
「どうせ無理」をなくしたい

坪田:学ばせてもらった方は、山ほどいます。ただ、究極を言うと、恩師は本です。本は偉人と対話できる、すごくディープなメディアです。子どもの頃から本当にたくさんの本を読んできたので。一冊一冊の本に影響を受けたというのが、正しい答えです。
ーーその中で、あえて一冊をあげると。
坪田:宗田理さんの『ぼくらの七日間戦争』(宗田理/KADOKAWA)です。この本で相手が大人だろうが、間違っていることに対して主張していいんだと学びました。そして、そういう子どもたちを支えられる先生になりたいと思ったんです。作者の宗田さんとは、前作の『ビリギャル』のときに対談をさせていただきました。宗田さんは当時、90歳近かったんですが、今でも書き続けられる原動力はなんですかと聞いたところ「悪い大人をやっつけたいから」という言葉が返ってきました。これを聞いたとき、僕は涙が出てきてしまったんです。僕も90歳になったときに、新しい作家さんに対談を申し込まれて、「ビリギャルを読んでこうしようと思いました」って言われるようになりたいって、思いました。
ーー『ビリギャル』も悪い大人をやっつけたい子どもを応援する内容です。
坪田:若い人たちの後押し、プロデュースですね。
ーーでは最後に、本作で読者に最も伝えたかったことを教えてください。
坪田:「どうせ無理」をなくしたいということです。前作のさやかさんがコロンビア大学の大学院にいた頃、映画『ビリギャル』を教材として学生みんなで見たことがありました。みんな感動して絶賛されたんですが、アジア圏以外の学生はよくわからないと言っていたそうなんです。なぜさやかが慶応に行きたいと言ったとき、まわりの大人は無理だやめろと言ったのかがわからないと。アジア圏の文化や家族、親子関係とは違う環境で育っているので、感覚が違うんです。
アジアや日本は無理はしない、大言壮語しないという空気があって、子どもがチャレンジしようとすると、親がついつい止めてしまう。そういうのを僕は「どうせ無理」という言葉に集約しているんです。自分たちは神様じゃないんだから、未来なんてわかるわけない。だったら、なにかやりたいっていう気持ちに対してはシンプルに応援しよう、そういう文化が日本にできていったらいいなと思っています。

■書誌情報
『勝手な夢を押しつける親を憎む優等生と、東大は無理とバカにされた学年ビリが、現役合格した話』
著者:坪田信貴
価格:1760円
発売日:2025年12月12日
出版社:サンマーク出版

























