『花より男子』神尾葉子の新作アニメ『プリズム輪舞曲』の注目点は? 初エッセイ『花より漫画』から読み解く

神尾葉子が原作・脚本・キャラクター原案を手掛けた新作アニメーション『プリズム輪舞曲』が、2026年1月15日よりNetflixにて世界配信される。神尾といえば、『花より男子』の原作者として知られる人気漫画家だが、今回は漫画原作のメディアミックスではなく、完全オリジナルのアニメーション作品。どのような仕上がりになるのか、楽しみで仕方ない。
【進捗報告】12月11日発売『花より漫画』
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漫画家人生のなかで、よくいただいた質問、猫のこと。寝食忘れてハマったものなど。さまざまなことを書いてます✨ pic.twitter.com/WiZdgaQ45T— 神尾葉子@『花より漫画』発売中🌸 (@yokokamioo) November 30, 2025
そんな注目作の配信を目前にして、神尾は初のエッセイ集『花より漫画』(KADOKAWA)を刊行した。同書には「『プリズム輪舞曲』が生まれるまで」と題した章も収録されている。驚かされるのは、このアニメのきっかけが、SNSに届いた一通のダイレクトメールだったという点だ。時は2021年。世界中がパンデミックの混乱のさなかにあった。
エンタメの現場は縮小し、海外旅行の再開も見通せない。不透明で、希望を見いだしにくい情勢のなかで生まれたのが、画家を目指す少女・一条院りりの、眩しいほどに生命力あふれる物語だった。
『プリズム輪舞曲』の舞台は19世紀初頭。日本はまだ明治時代である。りり(CV:種﨑敦美)が日本を飛び出し、イギリスへと渡るところから物語は幕を開ける。だが早々にトラブルに見舞われ、道に迷った彼女が助けを求めたのは、絵を描きながら消しゴム代わりに使った真っ黒なパンを「食うか?」と差し出す青年・キット(CV:内山昂輝)だった。しかも彼は、留学先の学校で不動の1位を誇る天才だったのだ。
「波止場で真っ黒なパン食べてた変人!」という最悪な第一印象と、圧倒的な才能。そのギャップを早々に見せつけるキットに対し、「あいつから1位を奪い取ってやる!」と異国の地でもひたむきに前を向くりり。応援せずにはいられない彼女の姿に、ふたりの距離は少しずつ縮まり、やがて恋心が芽生えていく。
さらに、キットが実は貴族であり、すでに婚約者・キャサリン(CV:上坂すみれ)がいることも明らかになる。国籍、身分、立場――障壁だらけの恋。現代よりもはるかに分厚く、高く感じられる壁が、ふたりの前に立ちはだかる。そこへ、りりをそっと励ます小早川新之助(CV:梶裕貴)が現れ、三角関係の予感も漂い始める。
りりには幸せになってほしい。刺激的なキットとの恋を貫くのか、それとも新之助のもたらす温かな安らぎを選ぶのか。どちらに転んでも納得できてしまうからこそ、ヒロインの選択から目が離せない。この“選べなさ“こそ、牧野つくし、道明寺司、花沢類の三角関係で多くの読者を魅了してきた、神尾葉子の真骨頂と言えるだろう。
『花より漫画』には、何度も牧野つくしに花沢類を選ばせようと考えた、というエピソードも綴られている。道明寺がつくしにしてきたことがあまりにも罪深く、性格に問題がある。「花沢類を選んでいいよ」と語りかけるような気持ちで描いていたという。しかし作者の思いとは裏腹に、つくしは自らの意志で道明寺を選んでしまったのだそうだ。
キャラクターが勝手に動き、作者さえも予想しない場所へ物語が転がっていく。だからこそ神尾の作品は、王道の少女漫画的構図でありながら、ハッとさせられる瞬間に満ちているのだろう。企画スタートから完成まで実に5年、全20話で描かれる『プリズム輪舞曲』でも、きっとりりたちは神尾を翻弄していたに違いない。いつか語られる制作秘話が、今から楽しみだ。
「誰かと相談しながら話を作るのも初めて。まるで新人に戻ったような気分だった」とエッセイにあるように、神尾自身も初めて本格的に関わったアニメーション制作から、新鮮な刺激を受けたようだ。未知のフィールドに不安を抱きながらも、目を輝かせて駆け抜けるりりの姿には、神尾自身の初々しい心境が重なって見えた。
神尾はかねてより、漫画を描く際に映画の画角を思い浮かべてきたという。『花より男子』でつくしと道明寺の破局を示唆するシーンの見せ方は、映画『ゴッドファーザー』に着想を得たものだったそうだ。少女漫画にマフィア映画の不穏な空気を忍ばせる。そんな漫画と映画をかけ合わせた独自の視点は、アニメーションという場でどのように昇華されるのだろうか。神尾の思考を覗き見るほどに、『プリズム輪舞曲』への期待は膨らんでいく。『花より漫画』を片手に、配信開始の日を待つのもまた一興だ。






















