「かわいそう」でも「たくましい」でもない 上間陽子が追い続けた、沖縄の少女たちの“生”の記録

上間陽子『裸足で逃げる』がちくま文庫化

 上間陽子『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』(ちくま文庫)が12月12日に発売される。

 著者の上間陽子は1972年、沖縄県コザ市に生まれる。琉球大学教育学研究科教授。1990年代から2014年にかけて東京で、以降は沖縄で未成年の少女たちの支援・調査に携わる。2016年夏、うるま市の元海兵隊員・軍属による殺人事件をきっかけに沖縄の性暴力について書くことを決め、翌年『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』(太田出版、2017年)を刊行。2020年に刊行した『海をあげる』(筑摩書房)で、Yahoo! ニュース|本屋大賞2021ノンフィクション本大賞/沖縄書店大賞沖縄部門大賞(第7回)/〔池田晶子記念〕わたくし、つまりNobody賞(第14回)を受賞している。

 沖縄の女性たちが暴力を受け、そこから逃げて、自分の居場所をつくりあげていくまでーー。

 本書は、打越正行『ヤンキーと地元』(筑摩書房)とともに沖縄の語り方を変えた、調査の記録。累計3万部超の傑作に、文庫化にあたって13000字の書きおろし「十年後」をくわえた決定版となっている。

 彼女たちの語った話は著者の手で書き起こされ、目の前で読み上げられ、自己の物語として了解されていく。沖縄の話であり世界の話でもある、比類ない調査の記録。

書きおろし「十年後」より

 『裸足で逃げる』を出版して十年たった。本に登場した女性たちとの付き合いは十年を超え、なかには二十年になるひともいる。あのころ十代、二十代で夜の世界で働いていた女性たちの多くは、いま、三十代を迎えている。

 この十年間で彼女たちの生活はそれぞれ変化した。何名かのひとは入籍して仕事を辞めて、子どもを持ち専業主婦になった。夜の仕事を続けていた女性たちのほとんどは、それぞれのタイミングで仕事を変えた。

 あるひとは、朝までお酒を飲むキャバクラから真夜中は閉店するスナックに、またあるひとは、お酒を飲まずにカウンターの向こうで接客できるバーテンダーに、そしてある時期からは、お店のお客さんや親族に紹介された漫画喫茶や地元の大衆食堂などで働くようになったひともいる。

 みんなはいま、新しい家族と日々を過ごし、自分以外の誰かの生活を背負いケアを続ける大人になった。でも、考えてみると十代や二十代になったばかりのあの頃から、彼女たちはほかのひとの生活を背負って生きる、誰かをケアするひとだった。

社会学者・岸政彦 コメント

それは、「かわいそう」でも、「たくましい」でもない。この本に登場する女性たちは、それぞれの人生のなかの、わずかな、どうしようもない選択肢のなかから、必死で最善を選んでいる。それは私たち他人にとっては、不利な道を自分で選んでいるようにしか見えないかもしれない。上間陽子は診断しない。ただ話を聞く。今度は、私たちが上間陽子の話を聞く番だ。
この街の、この国の夜は、こんなに暗い。

■書誌情報
『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』
著者:上間陽子
価格:968円
発売日:2025年12月12日
出版社:筑摩書房
レーベル:ちくま文庫

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