ヨウジヤマモト、伊藤潤二の漫画「うずまき」から着想したコレクション発表 漫画を着るファッションの浸透度

ヨウジヤマモト、伊藤潤二とコラボ

 2025年11月、ヨウジヤマモトのレーベル『S’YTE』が、ホラー漫画家・伊藤潤二の代表作『うずまき』をモチーフにした最新コラボコレクションを発表。新たに描き下ろされたアートワークを大胆に落とし込んだアパレルと小物で構成され、11月5日から渋谷PARCO などで販売が始まる。

 コートやジャケット、プリントシャツ、小物類までを含む全23型。この動きは、単なるファッションのコラボにとどまらない。「漫画を着る」「物語を身につける」という、媒体横断的な文化の変容を示す新しい潮流だ。今回は、ファッションと漫画、ポップカルチャーの融合の構造を考えてみたい。

 ファッションとサブカルチャー、なかでも漫画・アニメのコラボレーション自体は、近年めずらしい話ではない。ストリート系ブランドやファストファッションがアニメ・漫画作品と協業することで、若年層やサブカル層を取り込む例は多数ある。しかし、ヨウジヤマモトのようなモードを標榜するブランドが、ホラー漫画の巨匠とタッグを組むというのは、ただのコラボ以上の意味を持つ。

■「うずまき」コレクションの狙い

 今回のコラボでは、ヒロイン・五島桐絵やクラスメイト黒谷あざみといったキャラクターを、ヨウジの服を纏わせた描き下ろしイラストで表現。背面に大きなプリントを施したコート、漫画のコマ割り風ワッペン入りジャケット、ラップスカートパンツ、小物類など、多彩なラインアップで「ファッションとしての完成度」と「漫画へのオマージュ」を両立させている。

 この構造は「衣服を売る」のではなく、「体験価値と物語を売る」戦略だ。Tシャツやバッグのようなサブカル系コラボとは異なり、ヨウジの美学と伊藤作品の世界観を“本気で混ぜる”ことで、モード層からサブカル〜オルタナティブやアート層に横断的に訴求する。

 インターネット文化やSNSの浸透によって、かつて「サブカル」「メインストリーム」「ハイファッション」と分かれていたカテゴリの壁は崩れつつある。人々のアイデンティティが多層化する中、漫画、ホラーといった従来サブカルとされた要素が、モードやストリートの一部として自然に受け入れられてきた。かつて漫画は「読むもの」、服は「着るもの」。だが現代では、「読む」「着る」「映す」「共有する」が混ざり合う。漫画のストーリー性やビジュアル性を、服という物理的な媒体に落とし込むことで、読者とファンの“体験”を拡張できる。これは単なる記号遊びではなく、物語=記憶=アイデンティティを“着る”という新しい消費行動のモデルだ。

 その功績は大きく、「ファッションにサブカルやポップカルチャーの要素を取り込む入口をつくる」という役割を果たしてきた。さらに今回のような物語を纏う、モードとしてのコラボとは方向性が異なる。

 今回の事例が示すように、過去の名作漫画やサブカルチャー作品とのコラボは、ファッションと物語・世界観の融合として成立しうる。今後、ホラー、SF、歴史漫画、サブカル漫画はあらゆるジャンルで「服としての作品」が生まれる余地があるだろう。

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