ジョルジオ・アルマーニ91歳で逝去「モードの帝王」が与えた影響と遺したもの

ジョルジオ・アルマーニ『帝王の美学』

 「モードの帝王」と呼ばれたジョルジオ・アルマーニが91歳で死去した。世界のファッション史に燦然と名を刻んだ巨匠の訃報は、欧米を中心に瞬く間に世界中を駆け巡った。エレガンスを追求しながらも、時代に応じて軽やかに変化を遂げたそのスタイルは、メンズスーツから映画衣装、スポーツウェアに至るまで幅広く影響を及ぼした。

『帝王の美学』に見る人物像

 アルマーニが最初に世間を驚かせたのは1970年代。肩パッドを削ぎ落とし、体の線に寄り添うソフトな仕立てを打ち出した「アンコンストラクテッド・ジャケット」は、クラシックなメンズスーツに革命をもたらした。これまで堅苦しく権威的だったビジネススーツは、アルマーニによって「自由で洗練された装い」へと刷新された。1980年代には映画『アメリカン・ジゴロ』でリチャード・ギアに提供した衣装が世界的なブームを巻き起こす。アルマーニの名は瞬く間にグローバルブランドとなり、メンズのみならずウィメンズ、さらにインテリアや化粧品まで多角的に広がっていった。

 アルマーニの人物像を描き出した評伝『帝王の美学』では、彼の美意識の核にあるのは「余白」と「抑制」だと語られている。華美な装飾を排し、シンプルなラインと上質な素材だけで勝負する姿勢は、一貫して「本物のエレガンスは控えめである」という信念に基づいていた。同書によれば、アルマーニは徹底した完璧主義者であり、社員やモデルにも細部へのこだわりを求めたという。一方で、自身のブランドを巨大化させる中でも「ラグジュアリーとは誰かに見せびらかすものではなく、自分のために存在するもの」という哲学を貫いた。

 アルマーニの功績は、ラグジュアリーを閉じられたサロンから街やスポーツの現場にまで広げた点にもある。ミラノ五輪やサッカー代表チームの公式スーツを手がけ、「スポーツとモード」の融合を積極的に推進。ビジネスエリートだけでなく、幅広い層に「アルマーニの装い」を浸透させた。

 1990年代以降は、アルマーニ・エクスチェンジなどカジュアルラインを展開し、若い世代にもブランドを開放した。老舗ブランドの中でも稀有なほど、階層や世代を越えて浸透した存在だった。ジョルジオ・アルマーニの死は、一つの時代の終わりを象徴する。しかし、彼が築いた美学と哲学は今なお世界中のデザイナーに息づいている。派手さや奇抜さに頼らず、素材とシルエットに魂を込める姿勢は、流行に左右されがちな現代ファッション界において改めて重みを増している。

 『帝王の美学』が示したように、アルマーニは「控えめであることの力」を信じた稀有なデザイナーだった。その静かな威厳は、彼が生涯をかけて築き上げたブランドとともに、これからも生き続けるだろう。

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