『べらぼう』吉原を訪れる人たちの憧れ「花魁道中」とはなんだったのか? 流行と変遷を識者に聞く

『べらぼう』花魁道中を振り返る

『べらぼう』のオープニングの魅力

 NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』。主人公は、江戸時代中期に活躍した出版業界人・蔦屋重三郎(以下、蔦重)で、横浜流星が演じている。戦国武将でも幕末志士でもない人物が大河の主人公に抜擢されるのは異例である。

櫻庭由紀子『蔦屋重三郎と粋な男たち!』(内外出版社/刊)

 放送が始まると、吉原遊郭のリアリティあふれる表現など、従来の大河ドラマにはない表現がSNSでも話題となっていた。『蔦屋重三郎と粋な男たち!』(内外出版社刊)の著者で、江戸の庶民文化全般に精通している櫻庭由紀子さんは、『べらぼう』のオープニングの映像の素晴らしさに感銘を受けたと話す。

「オープニングでは、まず江戸の吉原や日本橋の風景が出てきて、蔦重によって本が出版されていく様子が描かれています。その後、本が燃えているのです。これは松平定信が行った『寛政の改革』の出版統制を表現したのだと思いますが、NHKの覚悟を感じる表現だと思います。

 

■花魁道中はどのように生まれたのか

 NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』は、江戸時代中期に活躍した出版業界人の蔦屋重三郎(以下、蔦重)が主人公である。最終版を迎える中で、面白いエンタメを生み出すために奔走する蔦重には、いつもエキサイトしてしまう視聴者も多かったのではないだろうか。歴史研究家の櫻庭由紀子さんも、「『ジャンプ』や『ヤングジャンプ』を読んでいるよう」と話す。

 さて、蔦重は江戸の吉原に生まれ、ここを拠点に出版活動を展開していく。吉原は幕府公認の遊郭であり、遊女のなかでも最高位に位置するのが花魁である。花魁は和歌や華道、舞踊、三味線など様々な教養と芸能を身に付けている必要があり、その地位につくための苦悩は並大抵のものではなかった。

 そんな花魁が客から指名を受け、多くの付き添いとともに茶屋へと出向く道中行列を“花魁道中”という。その光景はこの世のものとは思えないほど、煌びやかなものだった。吉原を訪れる人たちの目を引き、見物客も多かった。そんな花魁道中はどのように始まり、発展していったのか。櫻庭さんはこう解説する。

 「花魁道中は田沼意次の時代に生まれ、松平定信の寛政の改革で一気に衰退していったと考えられます。もっとも豪華絢爛だったのは宝暦(1751~64)年間、いわゆる太夫色があった頃です。蔦重の頃は落ち着いてきたとはいえ、まだまだ華やかさが残っていたと思います」

■遊女の豪華な衣装は上方の影響

 後の時代には、吉原の名物として、一種の観光イベントのようになっていたようである。

 「夕方16時くらいになると花魁たちが豪華な着物をまとい、禿(かむろ)や新造と呼ばれる見習い遊女を引き連れていく。現代でいえば、テーマパークのパレードのような感じでしょうか。ある意味、見世物的な雰囲気になっていたと言ってもいいでしょう」

 遊女の華やかな衣装や数々のしきたりなどは、京都、大坂などの上方の影響を色濃く受けているという。

 「蔦重の出版界もそうですが、基本的に上方から渡ってきたものが江戸好みに進化していったものが多いのです。遊女の歩き方も“内八文字”は島原風、“外八文字”は江戸風といわれます。外八文字は外に蹴り出して歩くため、着物の間から花魁の足がちらっと見えた。人々はここに魅力を感じていたようですね」

 そして、遊女と言えば、塗りの高下駄を履いて歩くイメージが強い。これも、花魁がもっとも華やかだった時代に誕生したものだ。

 「豪華な高下駄を履くようになったのは宝暦(1751~64)年間といわれ、その前は大きな草履だったらしいんですよ。元禄時代の落語の『暁烏』を聞くと、太夫は草履をペタンペタンと鳴らしてゆっくり歩いてきたようです」

■きれいな遊び方が好まれた要因

 揚屋に赴いて遊女を呼ぶ遊び方も江戸後期には衰退し、格子の奥にいる遊女を選ぶスタイルに変化していった。その一方で、吉原では江戸後期になると、遊女にお金を見せびらかすのではなく、“きれいに遊ぶ”スタイルが支持されていった。

 「ちょっと地味であっても、“はり”や“粋”が好まれるようになったのです。現代でも、銀座の高級クラブで札束をホステスさんに見せびらかすのは、下品でしょう。むしろ、限られたお金のなかでホステスさんを機嫌良くさせて、人前ではなく、隠れたところでお金や物を手渡したりするほうがスマートですよね」

 吉原は江戸を代表する観光スポットであり、流行の発信基地であり、文化の殿堂であった。花魁道中は、そんな吉原の文化の粋を集めたものと言っていいだろう。その流行の変遷を読み解いていくと、江戸の人たちの憧れや物の見方、考え方にも迫ることができるのである。

 

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