アニメ『進撃の巨人』は赤字見込みだった? 講談社のIP戦略を取締役らが語る「IMART2025」基調講演レポ

一般社団法人MANGA総合研究所が11月12日と13日に東京・池袋とオンライン配信で開催した「国際MANGA会議 Reiwa Toshima」(IMART2025)。12日に行われた基調講演では、講談社ライツ担当取締役の角田真敏や同じく講談社ライツ・メディアビジネス本部/ライツMD部兼IPビジネス部兼グローバル統括室の伊藤洋平、グッドスマイルカンパニー代表取締役社長の岩佐厳太郎が登壇。「マンガIPのこれまでとこれから」というテーマで、それぞれの会社が国内外で行っているライツ事業やグッズ事業について話し、IPをただライセンスするだけでなく、もの作りや海外展開に積極的に関与するようになっている現状が示された。
2019年11月に「東アジア文化都市2019豊島」の中でマンガ・アニメのボーダーレス・カンファレンス「国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima」として1回目が開催された「IMART」は、第6回となる「IMART2025」から漫画を中心とした内容となり、話題のAI(人工知能)や縦読みマンガのWebtoonの現状、電子コミックの現在地、2.5次元舞台を成立させるマーケティングのあり方などが、専門家によって池袋の会場やオンライン配信によって語られた。
12日に開催の基調講演は、そうした「IMART2025」の中心となるもの。MANGA総合研究所所長で代表理事の菊池健から開催の経緯などについて説明があった後、MANGA総研研究員でエンタメ学者の中山淳雄が、コロナ禍で落ち込んだIP市場がここ数年急回復し、漫画とアニメのIP市場が全世界で4兆円規模に達していることを紹介した(2023年時点)。地域によっては成長速度がやや鈍化しているところもあるが、インドのようにエンターテインメント関連のイベント参加者の95%が10代といった地域もあり、今後大きく伸ばせる市場が存在していることが語られた。

基調講演では、こうした漫画IPに対する追い風の中、IPを作り出したりIPを使ったビジネスを展開していたりする会社から、担当者が順に登壇してニッポン放送の吉田尚記アナウンサーの質問に答える形で、それぞれの会社の取り組みが話された。
最初に登壇したのが、出版大手の講談社でライツ担当取締役を務める角田真敏氏。最新のトピックとして、10月4日から26日までアメリカのニューヨークに開いた没入型ポップアップ施設「KODANSHA HOUSE」を取り上げ、イベントとの併催ではない単独開催ながら、会期中に2万人が訪れ盛況に終わったことを説明した。
角田取締役によれば、講談社では「ブランディングプロジェクトというものが4年ほど前から始まっていて、講談社がどういう会社なのか、講談社によって世の中に何が訴求できるのか」を考え、いろいろなことに取り組んで来たという。講談社から刊行された作品がアニメになって海外に行っても、「映像にしても商品にしても現地のライセンシーの名前で展開されていて、講談社という名前は出ていなかった」。そうした状況を変え、多くのIPを持っている講談社の存在を認知してもらう目的もあって、こうしたチャレンジが行われたようだ。
この取り組みの一環として、日本から編集者が出向いて海外に在住の漫画家志望者からの持ち込み原稿を見て、アドバイスを行ったという。「編集者の仕事は、作家さんの才能を引き出すことはもちろん、会話を通じながらアドバイスをして一緒に作っていくこと」と角田取締役。日本では普通に行われていることを、海外で日本の漫画に興味を持った人に対して行うことで、ワールドワイドに活躍できる未来の作家を確保できるということだろう。
北中米カリブ海サッカー連盟(CONCACAF)と組んでの「CONCACAFゴールドカップ」とのコラボレーションも実施した。世界で人気のサッカー漫画でアニメも好評の『ブルーロック』が使われ、Tシャツなどのグッズが作られた。「サッカーをプレーすることに一生懸命な人たちに作品世界を知ってもらえる」といった思いがあってのコラボ。成果について、後で登壇した講談社の伊藤洋平が、普通なら巻を追うごとに下がっていく『ブルーロック』のコミックスの売上げが、北米では逆に伸びていることを紹介した。
アニメとの関わりについても、「単純ライセンスから2000年頃のインターバルを置いて、積極的に原作のための映像化を図っていこうと変わった」と角田取締役。一例として挙げたのが、真島ヒロ原作の『FARY TAIL』。2006年から2017年まで長期にわたって連載された作品を、製作委員会に入りこちらも10年かけて3期にわたってアニメ化して、世界で愛される作品に育て上げた。

こうした活動を通して世界に広がっている講談社の漫画IPだが、「届いていない余地はまだあると思っている。北米で見てもニューヨークやカリフォルニアで需要はあっても中西部には届いてない」と角田取締役。他の地域も含め、パートナーと共にプロモーション活動を行っていくことを話して講演を締めた。
続いて登壇したのは、フィギュアのメーカーとして知られるグッドスマイルカンパニーの岩佐厳太郎社長。2024年1月に創業者で現代表取締役会長の安藝貴範から引き継いだ岩佐社長は、社内に向けて「アライアンスをちゃんとしよう、ライセンサーのベストパートナーでいよう、クリエイティブを研ぎ澄まそうと言った」ことを紹介し、それまで以上に商品性の向上や連携の強化に取り組んでいることを説明した。
LABUBU(ラブブ)が世界中で大ヒットしている中国企業のPOP MART(ポップマート)が日本に進出する際に合弁企業を作って手助けしながら、ブレイク前に合弁を解消していたことにも触れたが、「ケンカ別れではなく、自分たちでやっていきたいということで解消した」だけだと説明。ただ、リスクを取ってでも自前でショップを作りそこで商品を展開していくPOP MARTのスタンスと、受注を中心に商品を作り各地のショップや通販を通して販売してくグッドスマイルカンパニーというスタイルの違いがあることを説明。そうした違いが今後の展開をどのように左右していくのかに興味を抱かせた。
グッドスマイルカンパニー自身の海外展開については、2つの営業方針があるとのこと。「日本や韓国、中国、台湾といった成熟した市場では、現地のパートナーと話し合って関係性を維持しながら、じわじわと広げていく。東南アジアや中東や南米といった新興マーケットには、どこかと組んでドーンと出て行くようなことをする」と岩佐社長。コンサルティング大手のマッキンゼーを経て入社した経歴から来る戦略眼も活かしつつ、ファンが求めるものをしっかりと商品化して送り出すスタンスで事業を進めていく。
このあと、講談社の現場でライツビジネスを行っている伊藤洋平も参加して、角田取締役、岩佐社長の3人によるトークが繰り広げられた。ここで伊藤から出た話題で会場も意外に思ったのは、『進撃の巨人』のアニメ化にあたって事業企画を「赤字見込みで出した」ということ。今でこそ原作の漫画もアニメも世界中に膨大なファンを持つ作品だが、「当時ああいったタイプの作品があまりなく、ハードな内容で商品化もダメだろうと厳しい見込みを出していた」と振り返った。
ただ、伊藤も含めた現場には、「良いアニメができる自信はあった」そうで、そうした意気込みを会社も後押しして、のちの成功に繋げた。角田取締役も「数字的には厳しくても、それを盛り返すような材料があるのでは」と考え、いっしょに営業していった。「『AKIRA』も最初は赤字だったが、長い期間をかけて採算が取れていくような経験をしたように、そうした作品は少なからずある」と角田取締役。長い歴史の中で数々の映像化や商品化に取り組んできた講談社だからこそ持っている経験やノウハウが、『進撃の巨人』を世界的なIPに押し上げたと言えそうだ。
こうしたアニメ化や商品化に当たって、伊藤が心がけているのは「嘘をつかないようにしている」こと。「アニメを作っているといろいろな問題に直面する。その1個1個とちゃんと向き合うしかない。原作者の先生に対しても制作会社に対しても監督に対してそう。アニメは人の手が描くもので、そうした誠実さが何か画面にも現れると思っている」。長い作品を長期に渡ってアニメ化する際に出資者として関わり続けることも、現場が安心して作品を作り続けられる助けになるといった話も出た。昨今、漫画やライトノベルのアニメ化が急増しているが、長いスパンでIPとしてしっかりと成長し、収益を上げていく上で参考になる内容のトークだった。
■「IMART」アーカイブチケット:https://imart2025archives.peatix.com/view
【写真】IP戦略のこれまでとこれからについて語る講談社取締役の田真敏ら 「IMART2025」基調講演の様子
























