『ONE PIECE』アニメ、新体制でどう変わる? 高度化し複雑化するストーリーを描ききれるか

『ONE PIECE』新体制で何が変わる?

 TVアニメ『ONE PIECE』が変わる。すでに放送時間が4月から日曜の深夜帯に移っているが、2026年4月からスタートの「エルバフ編」からは放送回数を年間最大26話に減らし、尾田栄一郎の原作漫画の1話分を1回の放送で描く方式を採用する。期待できるのは、情報が詰まった原作をじっくり読み込み、時間をかけて映像化される豊かな物語や迫力たっぷりのアクションだ。WIT STUDIOによる制作が決まっている再アニメ化で新しいファンを引き込みつつ、長いファンを満足させるアニメ版『ONE PIECE』を送り出す。

 1997年に「週刊少年ジャンプ」で連載が始まった尾田栄一郎の漫画『ONE PIECE』を改めて読むと、キャラクターが大きく描かれていて読みやすいことに気付く。今の『ONE PIECE』はコマ割りが細かく、それぞれのコマに描かれている絵も高密度。それが何ページにもわたって描かれていて、1話分を読み込むのに馴れた漫画読みでも結構な時間が必要だ。

 28年に及ぶ連載の中で積み上げてきたストーリーやキャラクターが、一気に絡み合って謎だった部分が表沙汰になろうとしているとしているところもあって、1話の1コマに込められた情報量が多くなってしまっているのかもしれない。加えて、漫画のキャラクターも最初期に比べて緻密さを増し、動きのダイナミックさも加わって来た。背景も含めてもはや絵画作品と言っていいくらいの完成度を、1ページ1ページが持つようになっている。

 こうした状況になっている『ONE PIECE』を、そのままTVアニメにするのがどれだけ大変なことか。想像するだけで、制作に当たっている東映アニメーションの相当な頑張りが浮かぶ。現在、各エピソードについて原作の掲載からTVアニメの放送までで1年ほどの遅れがあるが、これだけの期間でも原作に描かれている内容を理解し、コマ割りを分解して四角いフレームの中に落とし込んで映像にするのは大変そう。なおかつ今のアニメに求められる高密度でアクションもしっかりとした映像を作り上げるのは並大抵のことではない。

 『ONE PIECE』のTVアニメが年間に26話となることで、そうしたアニメ化の作業にしっかりとした時間が取れることになりそうだ。テンポよく畳みかけてくるところがある漫画の展開に、感情の変化を表すような間合いをつけて映像作品として仕立てることも、これまで今まで以上にできるようになるだろう。溜めを作ったりアクションを増したり振り返りを挟んだりして、漫画の1話分をひとつの完成された映像作品として描けるようになることで、見ている方も毎週の放送が楽しみになる。

 年間で最大26話の放送は、50号ほどが発行される週刊漫画誌の連載の半分で、原作の進行に対するアニメ化の遅れが大きく広がってしまう可能性が浮かぶが、今の『ONE PIECE』は緻密な作画で高度化し複雑化するストーリーを描けるように、連載ペースが3回掲載して1回休むといった状況になっている。原作者の体調面の問題が加わることもあって、年間の掲載話数は発行分の4分の3ほどに留まる。この後、どれくらい連載が続くかは不明だが、遅れが広がって完結から何十年もアニメが続くことにはならないだろう。

 吾峠呼世晴の『鬼滅の刃』は、2020年に連載を終えてからもなおアニメ化が進められていて、現在の『無限城編』の映画3部作が完結するまでに、あと数年はかかると見られている。それこそ連載終了から10年くらいの期間も想定されるとするなら、『ONE PIECE』のTVアニメが同じくらいの期間をかけて、アニメ版の完結へと至ったとしても、視聴者側にもはや違和感は生まれない。漫画の人気が下がって連載が打ち切りになり、アニメも無理矢理終わらせるようなことには絶対にならない作品なのだから、安心してアニメの完結を見守れる。

 深夜帯に放送が移ったことで、子供たちがリアルタイムで視聴して楽しむTVアニメといった括りから、すでに『ONE PIECE』は外れている。原作を追いかけて来た人や、1999年のTVアニメ放送開始からずっと見てきた人は、もう相当な年齢に達している。途中から加わってきたもしっかり大人になっているだろう。そうした人たちが、国外も含めて楽しむアニメに変わってきたところもあるだけに、じっくりと腰を据えて各話を描いてくスタイルは、視聴者的にも歓迎されるだろう。

 これからのファンになる子供たちは置き去りにされるのか。そこはWIT STUDIOが制作する『THE ONE PIECE』が担うことになる。原作を改めて今のアニメに求められるクオリティで作り直していくものになりそうなだけに、日本だけでなく世界に新しい『ONE PIECE』のファンを生み出しそう。WIT STUDIOは青山剛昌の『YAIBA』を『真·侍伝 YAIBA』として再アニメ化して新規のファンに応えている。同じような役割が、『THE ONE PIECE』でも果たされそうだ。

 『ONE PIECE』にはまた、ネットフリックスが進める実写のドラマ版も作られていて、シーズン2の2026年の配信開始と、シーズン3の製作がすでに発表されている。シーズン2ではそれまでにない強敵と強大な組織を相手にする「アラバスター編」が描かれ、世界の熱いファンを楽しませそう。人気が落ちれば続きが作られなくなるのが海外ドラマの特徴だが、『ONE PIECE』のドラマは幸いにして大好評。マリンフォード頂上戦争でのあのシーンを誰もが見たいと願っているうちは、作られ続けるだろう。

 新しく『ONE PIECE』に命を吹き込む動きが続々と登場し、『ONE PIECE FAN LETTERS』や『恋するワンピース』のようなスピンオフのアニメも作られるようになって広がりは維持できる。『ONE PIECE FILM RED』以来途絶えている劇場版も、いずれ何か動きがあると信じたい。そうしたカタマリとしての『ONE PIECE』のますますの躍進の中心で、漫画に沿うようにTVアニメが今まで以上のハイクオリティで進んでいく。

 どこにも死角はない。

■関連情報
メイン画像:『特別編集版「ワンピース」エッグヘッド編』
©尾田栄一郎/集英社・フジテレビ・東映アニメーション

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