【漫画】不登校の女の子が気になることとは? 少し不思議なガールミーツボーイ『ケルベロスの数え方』

【漫画】不登校の女の子が気になること

 もしもケルベロスが目の前にいたら、1頭と数えるのが正解なのだろうか、はたまた頭が3つあるから3頭なのか。この疑問は、2025年9月にpixivで投稿された短編漫画『ケルベロスの数え方』の主人公である少女が抱いたものだ。

 田舎町の夏、学校に通えていない少女・茜はケルベロスを飼っている同級生の少年の存在を知る。田んぼが広がる道路の真ん中で出会った2人と1頭(?)のケルベロス。果たして2人はどんなコミュニケーションを交わすのかーー。

 静かで、穏やかな世界が描かれる本作の作者・浅山猫背さんに創作のきっかけ、登場人物についてなど、話を聞いた。(あんどうまこと)

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『ケルベロスの数え方』(浅山猫背)

ーー本作を創作したきっかけを教えてください。

浅山猫背(以下、浅山):きっかけは2つあります。1つは日常の中で、ふと「ケルベロスってどうやって数えるのが正解なんだろう」という純粋な疑問を持ったことです。1頭と言いたいところですが、頭が3つあるので。

 2つ目は実家での体験です。私の実家は兼業農家をやっていて、父と一緒に牛舎へ牛糞をもらいに行ったんです。牛の糞をもらうことって、農家じゃないと絶対にやらない行動だなと思い、個人的にすごく面白くてーー。

 この2つを合わせて「少し不思議なボーイミーツガール」を描きたいと思い本作を創作しました。

ーーなぜ「少し不思議なボーイミーツガール」を描こうと思った?

浅山:子どもの頃、実家に『ドラえもん』(小学館)の漫画がいくつもあって、単行本を読んで育ちました。そのため「少し不思議」という意味としてのSF作品やその世界観が好きだったからです。また短編の読切を描こうと思ったときに、ボーイミーツガールが描きやすいんじゃないかなと思い。ただ、いつの間にか出来上がった物語はガールミーツボーイになってしまいましたが(笑)。

ーー少女・茜さんと少年・朽名くんを描くなかで意識したことは?

浅山:茜は人間関係がこじれて孤立し、朽名くんは無口だから周りから孤立していったーー。茜も朽名くんも、それぞれ孤独を抱えている人物として描こうと決めていました。

 ただ朽名くんはケルベロスを飼っています。動物との言語を介さないコミュニケーションが朽名くんにとって精神的な支えになっていたのかなと。だから朽名くんは孤独感を抱えながらも不登校にならず、学校に通えていたのだと思います。

 動物の世界にいた朽名くんに対して、茜は人間の世界にいた。人間の世界では言葉を介してわかり合えないと一緒にいられない。でも朽名くんは言語を介さなくても動物たちと一緒にいられる。孤独を抱えつつも境遇の異なるキャラクターとして2人を描きました。

ーー朽名くんの台詞が吹き出しの外いっぱいに描かれ、そのあと茜さんのモノローグ「朽名君の声はまるで、この世界の音を全部詰め込んだようなーー」が続くシーンは、意思疎通は図れていないけれど交流が生まれている。言葉を介さないコミュニケーションを象徴しているシーンだと感じました。

浅山:そうですね。朽名くんの声を茜が聞いて、何を言っているかわからないけれど美しくて、また話したくなる。そんな交流は言葉を交わしていないけれど、たしかに関係が生まれるといった、動物とのコミュニケーションの美しさと同じだと思います。

ーー本作を描くなかで印象に残っているシーンを教えてください。

浅山:物語終盤、朽名くんの声を聞いた茜が「ケルベロスの数え方、聞くのを忘れてた」とつぶやくシーンです。この段階では、茜にとってケルベロスの数え方はなんでもいいと思っているはず。なぜなら数え方の正解を知ることではなく、数え方を朽名くんに聞くことそのものが重要だったからです。

 茜の台詞に対して父が「あー……、まぁいいんじゃないか、なんでも」と言います。このときの父の言葉は本作を表した台詞だと思います。

ーー最後のページ、セミの鳴き声があたりに響く1コマが印象的でした。

浅山:茜の「ケルベロスってどうやって数えるの?」という質問に対する朽名くんの回答は、漫画の中では絶対に描かないと決めていました。その答えは茜にとって「なんでもいいこと」に変化しているので。

 ただ朽名くんの答えが世界から聞こえるようにはしたくて。朽名くんの回答をセミの鳴き声で表現しました。

ーー本作の背景はどのように執筆した?

浅山:実際に撮影した写真を加工したり、写真に加筆したり、3Dモデルを使ってみたり……。とにかくいろんなことを詰め込んでいます。

ーー今後の目標を教えてください。

浅山:商業誌で漫画を連載することが1番の目標です。ただ本作の作風は商業誌向けじゃないと思っています。物語に関する説明を省き、読者にあまり寄り添わないテイストなので。今後は商業誌を想定した、読者を意識した漫画も描いて、作家としての幅を広げていきたいです。

 最近、本作とは異なる漫画をSNSで投稿しました。その作品は4コマ形式のコミカルな漫画です。そういったコミカルさと、本作のような静けさを融合させたような作品を今後も発表したいと思います。

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