幽霊なのに超人的な強さで物理攻撃を繰り出す!? 血しぶき飛び散る爽やか青春ホラー『カラダ探し』がおもしろい


「夏はやっぱりホラーで盛り上がりたい!」そんなノリで怖さを楽しむなら、血しぶき飛び散る爽やかな青春ホラー『カラダ探し』シリーズに触れてみてはいかがだろうか。
ウェルザード著『カラダ探し』は、2011年に小説投稿サイト『エブリスタ』に投稿されて以来、書籍、漫画、ボイスドラマ、Webアニメなど様々な媒体で展開されている人気ホラーシリーズ。深夜0時に集められた高校生たちが、“赤い人”と呼ばれる少女の化け物に殺されながら8つに分かれた身体のパーツを探し出し、すべて集め終えるまで同じ日を繰り返す。そんな残酷なデスゲームが、カラダ探しだ。
2022年のホラー映画No.1を獲得した映画『カラダ探し』に続いて、今年9月5日には『カラダ探し THE LAST NIGHT』が公開される。本記事では、劇場公開に先立って、双葉社より刊行された公式ノベライズを紹介する。
学校を舞台に展開された『カラダ探し』から3年後を描く『カラダ探し THE LAST NIGHT』では、新たな舞台となる遊園地で、高校生5人がカラダ探しに巻き込まれる。お調子者の主人公・陸人。男勝りで気が強い岬。陸人の親友の大和。好奇心旺盛でイマドキな有紗。マイペースで無口な航。彼らが探すのは、行方不明となった前作のヒロイン・明日香の身体だ。そして、前作で明日香と共にカラダ探しをしていた高広も彼らに加わり、6人で過酷なゲームに挑戦することになる。

今回新たに判明したのは、カラダ探しを終わらせた瞬間、仲間のうち誰か一人がこの世から存在を消されるというルール。終わらせなければ永遠に惨殺され続け、終わらせれば仲間か自分が消える──。そんな究極の選択を迫られた高広たちは、極限状態の中でこの呪いを解き明かそうと手がかりを探す。そして、カラダ探しの根源となる忌まわしい事実に辿り着く。詳細なネタバレは避けるが、この理不尽なゲームの真相、そして“赤い人”が執拗に惨殺する理由も本作で明らかになる。単なる続編にとどまらず、“THE LAST NIGHT”というタイトルにふさわしい、新たなスケールの広がりと深みを持った作品と言えるだろう。
ここからは、前作に引き続き、今作でも圧倒的な存在感を放つ“赤い人”について記していきたい。彼女は超人的な強さで物理攻撃を繰り出す、極めてアクティブな化け物である。外見こそ長い黒髪に白いワンピースといった幽霊の王道スタイルだが、幽霊らしい儚さや病的さは一切なく、元気いっぱいなのだ。ペタペタと生々しい足音を立て、歌を歌いながら獲物を探し、見つけた瞬間「キャハハハッ!」と無邪気に笑いながら突進。そして、獲物の首を掴んで背骨ごと引き抜く。身体を引き裂く。心臓を取り出して握りつぶす。これほどフィジカルが強い怪異もなかなか珍しいのではないだろうか。
遊園地というシチュエーションも、彼女の殺戮シーンを生き生きと演出する舞台装置として機能している。ジェットコースターのレールの上や、観覧車のゴンドラの中など、逃げ場のない場所で赤い人に遭遇する恐怖と絶望は圧倒的だし、本来は笑顔あふれる楽しい場所が血に染まる残酷なギャップも、スリルと興奮を倍増させてくれる。
また、本作のニューヒロインである岬と、“赤い人”のバトルも非常に痛快で面白い。空手部副部長の岬は、彼女の顔面に蹴りを入れたり、正拳突きを放ったり、頭を回し蹴りしたりと、怪異相手だからこそできる容赦ない攻撃を繰り出していく。これまでは高校生たちが一方的に殺される場面が多かっただけに、この反撃シーンは新鮮で、読みながら非常にワクワクした。とはいえ、そこは最強の怪異。首が折れても顔がへこんでも、笑いながら襲い掛かってくる上に、この描写がまた恐ろしいのだが……。この辺りはぜひ実際に書籍で体感してほしい。
そんな血なまぐさいホラー描写に読み応えを感じる一方で、キャラクターたちの青春や恋模様もやはり印象的である。今作の主人公である陸人は、優柔不断で冴えない平凡な男子高校生。華やかなグループにいる美玲に片思い中で、ループを利用して彼女にアタックを試みるも、カラダ探しをするうちに自分が本当に一緒にいるべき存在は、ずっと近くにいたことに気付く。そんな陸人とヒロインが、最後のカラダ探しを始める前に、遊園地でデートをし、ひと時の幸せを噛みしめる場面は、とても甘酸っぱくて愛おしい。本作の清涼剤のようなワンシーンだった。
ちなみに前作『カラダ探し』でも、高校生同士の友情や成長が瑞々しく描かれていた。クラスで孤立していた明日香は、カラダ探しを通して仲間との絆を育み、自分の居場所を見つけていく。いじめられっ子の翔太もカラダ探しで仲間に必要とされる喜びを知り、足の怪我でトラウマを抱えていた篤史も、仲間のパスを繋ぐために身体を持って走り出す。理不尽な絶望に立ち向かいながら、人間的に成長していく彼らの姿は、ホラーという観点とは別軸で大きな見どころの一つだ。また、夜は地獄が待ち受けているにも関わらず、日中はしっかり青春できるメンタルは、「仲間と一緒なら無敵だ」という高校生特有のバフのようにも感じられて眩しい。
アクティブな怪異に景気よく殺されまくり、その合間に青春を謳歌するという独特の面白さがある作品だが、文体はライトノベル調で非常に読みやすく、ストーリーの山場も多いためテンポよく読み進められる。そのスピード感も相まって、さながら怖さを楽しむジェットコースターのような小説だ。Jホラーといえば、湿度の高いじっとりとした怖さが魅力の作品も多いが、今年の夏はスカッとするエキサイティングな青春ホラーを楽しんでみては。
なお、一つだけ注意事項を申し上げておきたい。ノベライズ版では、映画のワンシーンが挿絵として挟まれているが、ページによってはグロテスクなビジュアルが含まれ、開いた瞬間に衝撃を受けるかもしれない。ページをめくる際は、どうぞ心のご準備を。
























