夕やけニャンニャン、夢で逢えたら……土田晃之がハマった、80~90年代のバラエティ番組「変わり者ばっかりの世界だった」

土田晃之が憧れた、80~90年代バラエティ

 「華の昭和47年組」として活躍するお笑い芸人の土田晃之の著書『僕たちが愛した昭和カルチャー回顧録』(双葉社)が、8月20日に発売された。本書は土田が幼少期~若手芸人時代まで、80年代から90年代にかけてのカルチャーや出来事、さらにその時の思い出を語り尽くした一冊。当時のおもちゃやテレビ、学校生活など細かいところまで描写されていて、同じ世代の人間にとって、ツボに刺さりまくる内容になっている。今回は遠くなってしまったあの頃について、本人はどう思っているのか、実際のところを聞いてみた。

お笑いの道を決定づけた『夕ニャン』

土田晃之『僕たちが愛した昭和カルチャー回顧録』(双葉社)

――おもちゃからテレビ番組まで、本書ではさまざまな昭和カルチャーが語られていますが、その中で土田さんが最も影響を受けたのはなんですか?

土田:やっぱりテレビ番組の『夕やけニャンニャン』ですね。中1のときに始まって、クラスでも話題になっていたんですけど、野球部に入っていて部活で見られなかったんです。でも部活で怪我をしたとき、病院に行ってそのまま家に帰って、たまたま観ることができたんです。そうしたらもう、やめられない(笑)。次の日も観たくてしょうがなくなってしまって、結局、野球部をやめて。そこから転落人生です。その前からお笑いをやりたいと思っていたんですけど、それを決定づけたのが『夕ニャン』でした。

――どこにそんなに惹かれたのでしょう?

土田:当時はドリフターズの『8時だョ!全員集合』も『オレたちひょうきん族』もありましたけど、お客さんを巻き込んで、スタジオ全体で盛り上がるっていうスタイルはなかったんです。アイドルのおニャン子クラブがいて、とんねるずさんがいて片岡鶴太郎さんがいて、いろいろな人が集まって、熱い感じがありました。『全員集合』や『ひょうきん族』は計算して作ったお笑いですけど、それを壊す感じで、あの熱はほかにありませんでした。

――完全にハマったんですね。

土田:中2のときには『夕ニャン』のレギュラーを取ろうと思っていましたから。スタジオも飛び込みで行こうとして、でも顔バレしたら学校に怒られるし、漫画雑誌に載っていた通販でタイガーマスクのマスクを買っていました。飛び込みでスタジオに入れてくれるわけないんですけど。

――私も同世代なので、『夕ニャン』にはハマりました。

土田:おニャン子クラブは今年が結成40周年で、ファンの人たちが呼びかけて、一部メンバーで40周年コンサートをやったんです。それがYouTubeにあがっていて観たんですけど、エモいってこういうことだなと思いました。当たり前ですけど、出ているメンバーも客席もおじさんおばさんなんですよ。めちゃくちゃいい光景だなって。でも、メンバーが振りをぜんぜん覚えていなくて、横を見ながら踊っていて。歌詞もステージ前のモニターに出ているのか、そっちをチラチラ見ながら踊っていて。自分は全部、歌詞がわかって、それだけ好きだったんだなあ、普通に観に行きたかったなと思いました。

未成熟な時代だったからこその面白さ

――影響を受けたのが『夕やけニャンニャン』。では、時代全体で、昭和カルチャーのこういうところがよかったというのはありますか?

土田:単純にいえば、クレイジーだったところです。街も良くも悪くも怖かった。今は街でカツアゲされている人も殴られている人もいないです。防犯カメラがあちこちにあって、みんなスマホで動画を撮れる時代で、今のほうが正しいとは思います。でも、自分の子どもを見ていると、危機察知能力のなさに驚きます。昔は、街を歩いていて、あいつヤベえなっていう人間にすぐ気づいたじゃないですか。今の子は怖い思いをしていないから、たぶんそういうレーダーがないんでしょう。心配ですけど、今は表立って悪いことができない時代だから、それでもいいのかなと思いますが。

――あの頃と今、どっちがいいですか。

土田:それは今のほうがいいです。人に暴力をふるっていいわけないし、お金を奪ってもいいわけなんかないんで。タバコがどこでも吸えていたのも問題ですね。駅のホームから線路を見ると、捨てられた吸い殻がたくさん落ちていて。今、考えると、なんであんなことしていたんだろうって思います。

 あの頃は経済的にどんどん豊かになっていったけど、モラル的なものがついてきていない、未成熟な時代だったんだと思います。それはバラエティ番組も同じで、未熟だったからいろいろできて面白かったんでしょう。今はもう、あんなことできないですから。

――バラエティに関してはパワーが失われていると思いますか?

土田:思います。やっている僕らもめちゃくちゃ言葉を選んでいますし、作る側も気を遣っていますから。あと、80年代はバブルに向かう頃で制作費もあったから、いろいろ規模が違うんです。ダチョウ倶楽部さんに聞いた話で、『ビートたけしのお笑いウルトラクイズ』でバスをクレーンで持ち上げて海につけるときに、リハーサルを何度もやってシミュレーションを完璧にしていたんです。それは予算があったから、何度もできた。けっこうとんでもないことやっているけど安全面は気をつけていて、いろいろ削られている今のほうが危ないんじゃないかなとは思います。

――バラエティ番組も本の中でいろいろ語られていますが、復活してほしい番組はありますか?

土田:ないです。いい思い出にしておいたほうがいいと思います。今、復活しても、当時の面白さは超えられないでしょうし。たとえば中学のときに好きだった女の子に、50歳を過ぎて会うのはやめたほうがいいのと同じです。記憶ではすごく面白い回しか残っていなくて、実はつまらない回もけっこうあったかもしれないし、幻想の部分も大きいと思います。

――それでは質問を変えて、当時の番組で出てみたかったなという番組はありますか?

土田:出てみたかったのは、やっぱり『夕やけニャンニャン』。今の年齢で出たいとは思いませんけど、若かったら出たかったですね。とんねるずさんが若くて暴れているのを生で見たかったし、あの空気を体感したかったです。あと、現場を見てみたいという意味では『夢で逢えたら』です。コントの合間、内村光良さんや松本人志さんはあまりしゃべらなくて、南原清隆さんがよくしゃべっていたって聞きますし、みなさんがどんな感じでいたのか見てみたいです。

今はちゃんとした人しかテレビに出られない

――あの頃についていろいろ話していただきましたが、当時と今、なにが大きく変わりましたか?

土田:全部、変わっちゃいましたね。インターネットの影響が大きいと思います。若手の頃、事務所の副社長に“あんた、でかいこと言うなら偉くなれ。人の上に立たなかったら、誰も意見を聞いてくれないんだから”って言われたんです。当時はじゃあ、頑張るしかないなって思ったんですけど、今は偉くならなくたって、ネットにいくらでも書けるし影響を与えられますから。作る方も保守的になっちゃいますよね。

 そういう意味では、僕らの業界は一番、変わったんじゃないでしょうか。もともと女性にモテたくて、お金を稼ぎたくてこの世界に入ったのに、テレビに出るようになったらいろいろ言われるじゃないですか。話が違う、こうなるのだったら目指さなかったのにって。昔は普通の仕事ができない人が集まってくる、変わり者ばっかりの世界だったのに、今はちゃんとした人しかテレビに出られない。つまらないなぁと思います。

――同世代として共感します。そうは言っても時代は変わりました。昭和の世界はリアルではなく、この本の中で楽しむべきだということでしょうか。

土田:この本は10歳上の人が読んでもわかりませんし、10歳下の人が読んでもわかりません。プラスマイナス5歳ぐらいの人たちに向けて作ったので。友達と昔の思い出をしゃべっている感じで楽しんでもらえたらと思います。

 とはいえ『僕たちが愛した昭和カルチャー回顧録』の中に封印された刺激的な思い出の数々は、広い世代に必ず刺さるはずだ。それだけ、あの頃というのはバカバカしいほどに面白かったのだから。

 なお、リアルサウンド ブック編集部では2025年9月5日(金)に本書の刊行記念オンライントークショーを開催する。詳細は以下をチェック!

■イベント情報
土田晃之×鈴木おさむ『僕たちが愛した昭和カルチャー回顧録』刊行記念オンライントークショー
出演者:土田晃之、鈴木おさむ
日時:2025年9月5日(金)19時〜20時30分
配信期間:2025年9月5日(金)19時〜〜9月19日23時59分(金)(アーカイブ視聴可)
『僕たちが愛した昭和カルチャー回顧録』単行本付き配信チケット価格:1,815円
主催:リアルサウンド ブック編集部
協力:双葉社
参加対象者:下記webサイト『blueprint book store』にて、配信チケットを購入した方

■書誌情報
『僕たちが愛した昭和カルチャー回顧録』
著者:土田晃之
発売日:2025年8月20日
税込定価:1,815円
出版社:双葉社

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