【漫画】金髪ギャルと中年サラリーマンが“ソフレ”に!? 立ち食いそばの奥深さに迫るB級グルメ漫画『そばギャルとおじさん』

駅前にあって、忙しいときでも頼めばすぐに食べられて、しかも安くてうまい——そんな「立ち食いそば」の世界を10年以上にわたり研究し続けてきた、立ち食いそばライターの本橋隆司氏。
『立ち食いそば大図鑑』(スタンダーズ)の著者で街ブラ番組などに専門家として出演することもある本橋氏は、現在その知識を活かして、今年5月より漫画サイト『COMIC熱帯』で連載スタートした漫画『そばギャルとおじさん』の原案・監修を担当。店のツユのこだわり、トッピングの頼み方まで、立ち食いそばの奥深さに魅せられてきた本橋氏ならではのうんちくが山ほど詰まったグルメ漫画で、7月25日には最新5話が同サイトでアップされた。
物語は、中年サラリーマンの秋丸泰造がゴリッゴリの金髪ギャルのじゅりなと出会い、そば店の新しい食べ方を模索するというもの。「オキアミ」の天ぷらをシェアしたことをきっかけに 「ソフレ(そばフレンド)」になった二人が人気そば店を食べ尽くす極上のそばコメディになっている。
今回は、そんな本橋氏に「立ちそばに惹かれた理由」「最新の立ちそば事情」、そして漫画創作の裏側までたっぷりと話を聞いた。
【漫画『そばギャルとおじさん』第1話を試し読み】

実は「語りどころ」がたっぷりある「立ち食いそば」の世界
ーーまず、立ち食いそば専門のライターになったきっかけから伺えますか?
本橋:初めて記事を書いたのは2012年でした。当時からラーメンやうどんの専門ライターはいたんですが、立ち食いそばを専門に研究をするプロライターというのがいなかったんです。いわゆる“本格そば”には専門家がいましたが、立ち食いそばは全国どこにでもあるというわけではなく、どちらかと言えば首都圏ローカルの食文化。だからこそ、情報があまり整理されていなくて、調べがいがあるというか、ニッチで面白いんです。
ーー首都圏の人は誰もが食べているはずなのに、立ち食いそばは確かにそれまであまり語られていないジャンルでした。つまり、声高に語られない「愛好家の声」を拾い上げたということですか。
本橋:そうとも言えます。XなどSNSの普及によって、今ではB級グルメの食べ歩きを趣味にする人も多いと思いますが、立ち食いそばなどはサラリーマンの昼飯の代名詞的な存在で、わざわざ食べた感想を語るようなものじゃないという空気があった。でも、食べ歩いて研究していくうちに店ごとのこだわりや特色がもちろんあって、SNSなどで情報を集めていくと、実は潜在的なファンが多いことが分かっていった。そういう人たちと立ち食いそばの話をしていると「あそこのアレがいいよね」「実はあそこのこだわりは」といったように知らない情報が山ほど出てきたんです。実は語るべきポイントがいくらでもあって、しかも語りたい人も少なくなかった。ライターとして調べる価値に魅了されてしまったんです。
ーー高級そばとは違う、立ち食いそばならではの魅力というのはどういったところでしょう?
本橋:B級グルメ全般がそうですが、やはり自由なところ。気取らず、構えず、とっとと食ってとっとと帰れる(笑)。非常にシンプルな食べ物に見えるかもしれませんが、だからこそ細部にものすごく個性が出る。ツユ、麺の種類、天ぷらの揚げ方、提供の仕方、そういった店ごとの細かい違いを、安く早く、毎日楽しめるというのが大きいと思います。
ーーツユだけでも、かなりの違いがあると。
本橋:はい。ざっくり言うと、そばつゆは「出汁」と「かえし」の作りとバランスで大きく味が変わってくるんです。たとえば、チェーンの『六文そば』などは出汁よりもかえしを前に出すツユで、いわゆる“真っ黒いツユ”です。一方、ここ最近では出汁を前に出すツユを使う店も増えてきていて、私が注目しているのが戸越銀座に昨年オープンした『立ち食いそば でん』。ここはアゴ(トビウオ)出汁を使った、出汁が前面に出るタイプ。昔ながらの江戸そばとはまた違った美味しさがあって、ツユひとつとっても多様化が見られて、面白いんです。アゴ出汁の効いた冷たいそばもツユが美味いので、この夏にはおすすめですね。

ーー立ち食いそばでは、まずかけそばを頼んで、その上にカウンターに並んだ天ぷらから何を乗せるか悩むのも楽しいですよね。トッピングにも時代の変化はありますか?
本橋:江戸そばの天ぷらというのはツユに浸して食べるのを前提にしていたため衣が分厚かったんですが、最近は美味しい具が増えてきたのか、衣が薄くなって食べやすくなっているように思いますね。あとは、「肉そば」系が増えているのも近年の傾向です。江古田の『のじろう』に富士見台の『麺処 盛盛』、あとは煮込んだ豚バラ軟骨の「パイカそば」が看板メニューの神田小川町『豊はる』。このあたりの肉そばが今一番人気です。今の30〜40代は、現在の60代70代の若い頃とは違って肉を日常的に食べて育った世代なのでランチにも肉を求める人が多いのではないでしょうか。メインとなるサラリーマン層の食の好みの変化が、立ち食いそばのトッピングひとつにもあらわれていると言えます。
『そばギャルとおじさん』現場の空気と“そばネタ”をいかに描くか
ーー今年5月からWEBサイト「COMIC熱帯」で原作・監修を手掛ける漫画『そばギャルとおじさん』がスタートしました。中年サラリーマンと金髪ギャルがそれぞれの「そば」の情報を交換し合う内容ですが、どのような点を意識して原案を?
本橋:ストーリーや絵については作画担当の稲葉そーへーさんにお任せしてあるので、私は情報提供者として「このそばがどう面白いか」を伝える役に徹して、情報の正確さにはこだわっています。たとえば、第1話に登場した「アミ天」(オキアミの天ぷら)は、今では漁獲量が減ってしまっていて、モデルにした東神田『そば千』以外では首都圏にもう1店しかないレアなトッピングなんですが、実は改めて取材をしてみるとその2店で使っているアミの種類が違ったんです。そういったその都度の最新情報を可能な限り取材して、漫画に生かしてもらえればと思っています。
実は稲葉さんも担当編集者も、立ち食いそばにはそれほど馴染みがなかったそうなんです。なので、連載立ち上げの企画が上がった段階で、彼らを引き連れて“立ち食いそばツアー”を敢行しました(笑)。味はもちろん、カウンターの傷、お客さんの頼み方、「立ち食いそばでお酒を飲む人がいる」とか、店舗の雰囲気を体感してもらいたくて。そういった空気感も含めて、「立ち食いそばのここが面白いんです」ということを漫画にしてもらっています。
ーー漫画にしたことで読者からの反響は?
本橋:第2話でテーマにした“生玉子”の食べ方について、Xで「俺も丸呑み派です」という反応をもらいました。そばの玉子は麺に絡めて食べる「すき焼き派」が主流で、じゅりなのような「崩さずにそのまま丸呑みする派」は少数と思い込んでいたんですが……立ち食いユーザーの好みを正確に把握できていなかったことに気づかされました。
あとは、3話で「コロッケに紅生姜天を足すと美味い」という提案をしたんですが、これが思いの外反響が大きく、「真似しました」という感想を多くいただきました。コロッケをポタージュ状になるまでツユに浸して、そこに紅生姜天をあわせて食べるというものですが、『ゆで太郎』のように紅生姜が薬味に置いてある店だったら、それをコロッケにあわせてもいいと思います。
ーーテキストやブログではない、漫画だからこその反響の大きさかもしれないですね。
本橋:そうですね。最近は読者との距離が近くなって、感想をみんなで共有する楽しみもできた。実はたくさんいるんではないかと思っていた、“自分だけのそば屋”を語りたい人が反応してくれている。「立ち食いそば」って言ったら全部同じと思われるかもしれないですが、実は相当奥が深く、語れる要素がたくさんある面白い世界です。『そばギャルとおじさん』をきっかけに、その魅力を味わってほしいですね。
■関連情報
漫画『そばギャルとおじさん』は漫画サイト『COMIC熱帯』で好評連載中!
https://www.comicnettai.com/book/773






















