少女たちがみた沖縄戦の地獄絵図……衝撃の戦争マンガ『cocoon』で描かれた“想像の繭”というテーマ

かといって、同作に細部の描写が欠けているわけでは決してない。ガマのなかで兵士の壊死しかけた足を切断するシーンや、兵士の傷口からピンセットで蛆を取り除く場面など、生々しくグロテスクな描写が多数登場する。
さらに描写の細部だけでなく、物語上の展開としてもリアリティが担保されている。たとえば看護隊として働いていた女子生徒たちが、ある日突然軍から解散を命じられ、ガマの外に放り出されるというのは、1945年6月18日にひめゆり学徒隊を襲った本当の出来事だった。
こうした描写を踏まえるなら、“想像の繭”はたんなる現実の否定ではないように思われる。むしろ残酷な現実を直視したうえで、それでも生き抜こうとする決死の戦略なのではないだろうか。
たとえばマユは男性を苦手としているサンを守るため、男性はみんな「白い影ぼうし」なのだと言い聞かせる。そして実際に男性たちの姿は、顔のないぼんやりとしたシルエットとして描かれるのだが、時にはその姿のまま彼女たちに牙をむく。
また、サンは大きな怪我を負って絶望する友人を励ますため、いつか学校に戻って楽しい日々を過ごそうと明るく提案する。もちろん、誰もが甘い夢を受け入れるわけではなく、つねにその無力さが突きつけられていく。
現実を直視して生きるのは誰だって耐え難いもの。空想を糧にして自分の身を必死で守ろうとするのは、現代社会に生きる人々も変わらないだろう。サンたちに限らず、本当は多くの人が“想像の繭”のなかで生きながら現実と格闘しているのかもしれない。
なお、今日マチ子は同作以外にも少女と戦争をテーマとした作品を手掛けている。いずれも独創的な手法によって戦争の現実と向き合おうとする意欲作だ。とくに『ぱらいそ』は、無垢な少女ではなく、したたかに現実を生き抜こうとする少女の姿を描いている点で強烈な印象を残す作品だった。
80年前の夏に世界をどんな惨劇が襲ったのか……。今日マチ子の作品は、その歴史と現実を今と地続きのものとしてまざまざと体験させてくれる。

























