【漫画】猫が竜を育てるハートウォーミングな物語に脚光! 『猫と竜』誕生の背景は?

アマラによる小説で、漫画も人気の『猫と竜』シリーズが3月5日発売の『猫と竜 竜のお見合いと空飛ぶ猫』(宝島社文庫)で累計100万部(小説・コミックス・電子版含む)を突破した。猫が竜を育てるという心温まるストーリーの短編から始まったシリーズは、登場する猫が増え、人間も加わって広がりを見せ、そこで紡がれる物語によって読者に心地よい体験を与えている。アニメ化も決まって盛り上がるシリーズの生みの親、アマラさんに作品の魅力を聞いた。(タニグチリウイチ)
漫画『猫と竜』を試し読み
『猫と竜』誕生の背景

――アニメ化決定、おめでとうございます! 『猫と竜』は、最初は短編として「小説家になろう」に掲載された作品が、評判となって続きが書かれて連載になり、コミカライズもされてアニメ化へと進んでいきました。すでに長篇シリーズをいくつも書かれていたにも関わらず、単独の短編を書いたのはなぜですか?
アマラ:息抜きです。元から「小説家になろう」で長篇を書いていて、その息抜きとして短編も書いていました。小説を書く息抜きが小説を書くというよく分からない人種なんです(笑)。だから、書き始めた当初は、続きを書くとかまったく考えていませんでした。
――猫が火吹き竜を育てるというストーリーや、猫と竜の組み合わせは前々から材料として温めていたものですか?
アマラ:ライトノベルファンタジーを書こうと思ったところが出発点です。ファンタジーならドラゴンだよねというところから始まって、猫にも『猫の宅急便』のようなファンタジーのイメージがあって、そのふたつがくっついたものがあまりないのが不思議だったので、自分でくっつけてみても良いんじゃないかというところから始まりました。そこからどのようなお話がかけるのかを考えて、30分くらいでネタを詰めて書き始めたのが、小説でいう第1話の「猫と竜」になります。
――猫が竜を育てるという着想が新鮮でしたし、心を打たれました。
アマラ:動画サイトの動物動画を見ていると、猫とか犬が他の動物を育てているような動画がいくつもあって、だったら猫が竜を育てても良いかなあと思いました。自分としてはそれほど突飛な発想ではなくて、何十万作品も小説が掲載されている「小説家になろう」なら、同じようなことをしている作品が、ほかにもあるだろうという感覚でした。
――ところが、とてつもない数の反応がありました。
アマラ:夜中の11時くらいから書き始めて、書き上がったのが翌朝の7時くらいでした。そこから「小説家になろう」に投稿して、寝て起きたら感想が50件くらいついていたんです。何かサイバー攻撃でも受けているのか、それともサイトにバグがあったのかと思いました(笑)。感想を読んでいる間にもまた感想が付くような状態で、その日は100件くらい付きました。それも「面白かったです」といったものかと思ったら、「感動して涙が出ました」というもので、そんな泣かせるようなシーンがあったかなと自分で思ったほどです。
――先ほども続きの展開を考えて始めたものではないとおっしゃっていましたが、シリーズになったのはなぜですか。
アマラ:私は書籍デビューがアルファポリスの『地方騎士ハンスの受難』シリーズと、宝島社の『神様は異世界にお引越ししました』だったんです。その宝島社の担当編集者が別の版元に行くことになって、私が「餞別代わりに宝島社で『猫と竜』を本にしてください」と言ったら「良いですよ」と言われて、続きを書くことになりました。人気があったので同じ世界観の短編を書いてはいましたが、1冊の本には足らない量だったので、「大丈夫ですか?」と尋ねたら、「書き足してもらえれば大丈夫」と言われて、ちょろっと書いて「これで良いですか?」と渡すような軽いやりとりから、1冊目の『猫と竜』が生まれました。
魅力的なキャラクターたち
――ひとりの主人公がいて、ストーリーが続いていくような感じではなく、さまざまな猫が登場する連作集になっていました。
アマラ:いろいろなキャラクターを描くのが好きなんです。せっかく猫を題材にするのだから、いろいろなタイプの猫を出した方が良いと思い、あの形になりました。単巻で終わりだと思っていたら、好評だったので続きをやりましょうと言われて、いろいろと考えました。シリーズが続いてキャラクターもたくさん出てくるようになったので、狂言回しのようなキャラクター、全体の顔を繋ぐようなキャラクターが絶対にいると考えて作ったのがハイブチです。人間の街に住んでいる猫の代表で、顔が広くて他のキャラクターたちと絡んでいける役回りです。いろいろと肉付けしていく間に、魅力のあるキャラクターになってくれました。
――火吹き竜を育てた母猫(ママにゃん)も強烈です。アンネロッサという少女によって召喚されてしまいますが、その後も登場し続けて、猫や他の生き物と人間を繋ぐような役割を果たします。
アマラ:ママにゃんが召喚された後にどうなったのかは、割と早い段階で書いていました。召喚されるのなら魔法学校のような施設があった方が良い、そうなるとダンジョンもあった方が面白い。では、どうしたらダンジョンができるんだろうか、何か実験の失敗で空間に穴が開いてダンジョンになったんだろうか、そこからモンスターも出てくるんだろうか……と考えて、ああいう展開になりました。ママにゃんは本当にパワフルで、書く側としては結構、振り回されるところがあります。好奇心のカタマリのような存在で、いろいろなところに顔を出して繋ぎ役をして、生き物たちの代弁者をしてくれる感じ。自由に動いてくれてありがたいキャラクターだと思いながら書いています。
――人間の方も魅力的な登場人物が満載です。ママにゃんを召喚したアンネロッサや冒険者になりたくて城を飛び出した王子、魔法学校に通うガリーという少女など、個性豊かでした。
アマラ:王子とガリーは最終的に知り合いになるだろうなあと思いながら書いていました。でも、単巻で終わるつもりだったので、その話を書くことはないだろうとも思っていました。続きが出てその話を書くことになって、やっと会うところまで書けたときは嬉しかったです。アニメでも二人が出会えたら、もうびっくりです(笑)。

――王子なんて裸に毛皮で作った腰みのという、とても王子とは思えない格好で登場します。
アマラ:文章で書いていた時は、それほどインパクトのあるシーンではないと思っていましたが、大熊まい先生によってイラストになったときに、こんな格好で歩き回っていたのかと驚きました。さらに佐々木泉先生によって漫画になったときは、こんなにヤバいやつだったのか、と(笑)。佐々木先生は戦国時代の話を漫画で描かれている方で、絵にとても重厚感があるんです。『猫と竜』は可愛らしい絵になっていますが、やはりリアリティが半端じゃないです。
――お気に入りのキャラクターは誰でしょう?
アマラ:脇役なんですが、魔法学校でガリーのルームメイトになるクルルカです。本当だったらスポットが当たらないようなキャラクターが活躍している話が自分は大好きなので、また活躍させられたら良いなあと思っています。