アニメ『怪獣8号』なぜリアルに感じる? “怪獣のいる世界”を信じさせる仕掛けの数々

■原作とアニメどこが変わった?

 2020年7月より『少年ジャンプ+』で連載されている松本直也のSFバトルマンガ『怪獣8号』があと2話で完結されることが決定した。人々の生活を脅かす怪獣と「日本防衛隊」が日夜戦いを繰り広げている世界を舞台に、ある日突然“怪獣化”の力を得た主人公・日比野カフカの活躍を描いたストーリーとなっている。

 2024年4月13日から6月29日までは第一期のアニメが放送され、2025年7月19日からは第二期のアニメの放送も発表されている。人気作のアニメ化は何かと評価が厳しくなりがちだが、同作に関しては、かなり好調なスタートであった。今回は原作と第一期のアニメを考察していきたい。

 第一話で描かれたのは、横浜に現れた怪獣が「日本防衛隊」によって討伐され、怪獣専門清掃業で働くカフカがその後始末を行うところから始まるエピソードで、大筋はほとんど原作から変わっていない。しかし世界観の描写には、いろいろと見るべきところがあった。

 原作では冒頭1ページの時点で怪獣が討伐されるのだが、アニメ版では怪獣が街に上陸してから防衛隊が出撃するまでの描写が大量に追加されていた。「緊急怪獣警報」が発令された後、市民たちが「緊急地下避難所」と書かれたシェルターに向けて避難誘導されていき、怪獣災害対応の専用道路を通って車両がやってくる……。さまざまな描写によって、日常的に怪獣が襲来してくる社会であることが表現されていたのだ。

 とくに秀逸だったのは、避難誘導中のカットで登場した特殊な信号機のデザイン。青・黄・赤の横に怪獣マークがついたもう一つの赤信号が付いており、怪獣の襲来時に点灯する仕組みになっているようだった。

 さらにある種の“平和ボケ”的な描写として、テレビ局のディレクターらしき人物が、被害状況をカメラに収めるため、こなれた様子でカメラマンに指示を飛ばすシーンなども登場。またテレビ中継でどこか他人事のように怪獣討伐を応援する人々や、防衛隊のメンバーをアイドルのように推す人々の姿なども映し出されていた。

原作ファンをうれしくさせる小ネタ

 世界観の表現だけでなく、キャラクターに関わる描写にも多彩な工夫が見られた。第1話の後半では、突如地面から“余獣”が現れ、カフカが後輩の市川レノを逃して1人で時間稼ぎするシーンがある。原作ではこのシーンは一瞬で終わっており、カフカが「どうにもならん」と絶望したような態度で状況を受け入れているように見えたが、アニメ版では大きな改編が加えられている。

 余獣の出現と共にレノを逃がすところは変わらないが、その後カフカは全速力でダッシュ。狭い商店街に誘導して一度は逃亡することに成功した上、その後追いつかれた後も足を狙って反撃しようとする素振りを見せていた。これによって、絶体絶命のピンチでも諦めず、最後まで勝機を見出そうとするカフカの人間性がより鮮明になったと言えるだろう。

 なお、エンディング後のCパートでは幼い頃のカフカと亜白ミナの回想シーンが登場。そこでカフカは、まず足を攻撃して身動きを取れなくする……という怪獣への対処法を語っており、余獣襲撃シーンで見せた行動に知識の裏付けがあったことがはっきり分かるようになっていた。

 また、そのほかのキャラクターの描写も追加されており、たとえばミナの相棒・伐虎の存在感が原作より強まっている。余獣襲撃シーンでは、間一髪でカフカとレノを助ける見せ場が与えられていたほどだ。

 そのほか、後にストーリーに絡んでくる古橋伊春や出雲ハルイチといったキャラクターがちらっと登場するシーンなどもあり、原作ファンへの思わぬサプライズとなっている。

 想像力を刺激されるSFチックな世界観と、個性豊かなキャラクターたちの活躍。いずれも『怪獣8号』の根幹をなす部分なので、アニオリ要素の追加によって的確に作品の魅力が膨らんでいる印象だ。今後、怪獣との戦いが本格化するなかで、いかなるオリジナル演出が見られるのか楽しみにしたい。

 ©松本直也/集英社

 

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる