織守きょうや×芦花公園が語り合う“百合小説”の核心 同性同士だからこそ描ける、あいまいな関係性と強い感情

織守きょうや×芦花公園が語り合う“百合小説”

「百合」でしか得られない楽しさとはーー

芦花公園:織守先生は百合の楽しさってどこにあると思いますか?

織守 きょうや『明日もいっしょに帰りたい』
織守:さっき言ったことと重なりますが、はっきりと恋愛関係ではない二人がいちゃいちゃしている感じが好き。相手のことを好きだと自覚していない、でも強く惹かれているという感情を書けるのは、男女の恋愛小説よりも百合なのかなと思います。恋愛になるとそこに付随した感情がまた出てくるんですけど、恋愛未満の関係だとただ仲良くなりたいとか、こっちを見て笑ってほしいとか、そういうピュアな感情を書くことができますから。芦花公園さんは?

芦花公園:わたしは女性に一番厳しいのって、女性だと思っているんです。男性って同性の駄目なところも「こいつポンコツでさあ」と笑って許してしまうじゃないですか。女性同士は割とそのへんシビアで、注意したりしますよね。他人のファッションについてあれこれ言うのも、圧倒的に女性同士だし。女性のおしゃれも異性に見せるためというよりは、女性同士で認められたい、可愛いと言い合いたいという側面がある気がするんです。

織守:そういうところはありますね。

芦花公園:そういうハードルを越えて、恋愛関係に陥る女性同士の姿っていうのは、すごくエモーショナルなものという気がするんです。自分が百合を書いていて一番楽しいのは、このあたりの感情の動きですね。

織守:たしかに。女性同士だからこそ分かり合える部分もあるし、逆にかっこつけたり隠している部分もあって、そこが響き合って強い感情が生まれてくる。『みにくいふたり』ではそのあたりの機微が、ホラーと絶妙に絡み合っているんですよね。芽衣を取り巻く台湾の学生たちの反応とか、恵君のことを「虫」と呼んでいる詠晴の振る舞いとか……。これは台湾でも出版されてほしいですね。

芦花公園:台湾の人たちは百合やBLのオタク文化に寛容と聞きますから、翻訳される可能性はありますね。違ったところで怒られるかもしれませんが。

織守:わたしたちは吸血鬼を使役していないぞって(笑)。でも台湾の読者からすると、自分たちの暮らす土地に異国から留学生がやってくるという話になるので、日本の読者とは受け止め方が違うと思うんです。そこで怖さがどう変化するのか気になります。

芦花公園:ありがとうございます。織守先生はミステリやホラーの人というイメージが強かったですが、百合小説もめちゃめちゃ良いですね。キャラ同士の関係性を書くのがお上手な織守先生ならではの百合になっていますし、登場人物がみんなきちんとしていて、スマートなのも織守先生らしいです。女の子が見た女の子の可愛さを、ここまで正しく書いてくれて、読んでいて嬉しくなりました。

織守:同じ百合でも2冊の読み味は大分違う。本の装丁も赤と白とで対象的ですしね。書店に並んだらきっと映えると思います。できれば2冊まとめて買っていただいて、百合にも色んな楽しさがあるんだよということを感じてほしいですね。

芦花公園:続けて読むと温度差で風邪を引きそうですけど(笑)。どちらを先に読むかでも印象が変わりますよね。『みにくいふたり』を先に読んだ人は、織守先生の作品でもひどいことが起こるんじゃないか、と疑り深くなってしまうかもしれません。

織守:『明日もいっしょに帰りたい』は安心して読めますから! でも百合というジャンルの幅広さを知ってもらえるという意味でも、読み比べてみるときっと面白いと思います。

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