織守きょうや×芦花公園が語り合う“百合小説”の核心 同性同士だからこそ描ける、あいまいな関係性と強い感情

織守きょうや×芦花公園が語り合う“百合小説”

 女性同士の心の触れあいを、切なく瑞々しいタッチで描いた織守きょうやさんの百合小説集『明日もいっしょに帰りたい』と、芦花公園さんが初めて百合×ホラーに挑んだ長編『みにくいふたり』。実業之日本社から相前後して刊行された2冊の百合小説が話題を呼んでいます。いつもはミステリやホラーを書いているお二人が考える、百合の魅力とは? 新作刊行記念のスペシャル対談をお届けします。(朝宮運河)

衝撃の百合×ホラー『みにくいふたり』はなぜ面白い?

芦花公園『みにくいふたり』
織守きょうや(以下・織守):『みにくいふたり』、読ませてもらいました。本の帯に「衝撃の百合×ホラー」ってあるんですけど、看板に偽りなしですね。ホラーの部分も百合の部分もどっちもガチで。両者まったく譲らないという感じが、芦花公園さんの作品らしくて面白かったです。

芦花公園:引き算を知らないタイプなんです(笑)。

織守:百合を読みたい人も、ホラーを読みたい人もどっちも大満足させてくれる作品だと思います。日本人の高校生・芽衣が台湾の学校に留学して……というお話ですが、台湾を舞台にしたのはどうしてなんですか。

芦花公園:学生時代、短期間ですけど留学していたことがあるんです。その時は皆さんに親切にしていただいたので、ホラーの舞台にしてしまって申し訳ないんですけど。

織守:いやいや、経験はなるべく生かさないと! それと先日『ロングレッグス』というホラー映画を観ていて思ったんですけど、日本では宗教的な題材があまりホラーになることはありませんよね。でも芦花公園さんはずっと宗教ホラーを書かれていて。

芦花公園:そうですね。『ほねがらみ』というデビュー作の時からずっと。

織守:その点、『みにくいふたり』はちょっと路線が違うのかなと読んでいて感じたんです。

芦花公園:そこは意識して変えたところです。いつもと違うことをしようと思って。今回は宗教要素が薄い、モンスターホラー系ですよね。言ってしまえば吸血鬼の話ですから。

織守:吸血鬼といっても一般にイメージするあの吸血鬼ではなくて、台湾に住み着いている土着的な種族という感じの。

芦花公園:そうです。日本には日本でまた別の吸血鬼がいるんですよ。その台湾版にたまたま留学生が魅入られてしまった、というお話。

織守:芽衣と「虫」と呼ばれる美少女・恵君の関係性が絶妙にねっとりしていて、情感がこもっていますよね。その湿度の高さが、台湾の雰囲気とよく合っていて、とても魅力的なホラーだと思いました。

芦花公園:ありがとうございます。ただ読者としては、穏やかで淡い感じの百合が好きなんですよ。

織守:本当ですか? 信じられない(笑)。

芦花公園:それが本当なんです。マンガだと岸虎次郎さんの『オトメの帝国』、小説だと三浦しをんさんの『ののはな通信』などが好きですね。わたしが思う百合の魅力って、女の子の可愛いさを同性の目で描写しているところなんです。織守先生の『明日もいっしょに帰りたい』はまさにそういう作品で、読んでいてキュンキュンしました。わたしも織守先生みたいな百合を書ければよかったんですけどね。

織守:芦花公園さんがピュアな学園百合を書いたら、読者が逆にびっくりしますよ。

芦花公園:『みにくいふたり』にも努力の跡は認められるんですが、やっぱり怖い、というか嫌な方に振っちゃいましたね。

織守:芽衣と恵君の出会いのシーンなんて、すごく印象的でしたけど。人間ではない恵君を見て、心底「きもっ」と思いながら、美しさに惹かれてしまう。その心情がホラーの部分にも絡み合っているので、必然性があるんですよね。自分の得意なフィールドに、しっかり百合を載せているのがすごい。あと、恵君ちゃんの口が、ぐわって大きく開くじゃないですか。あの場面にびっくりして。

芦花公園:一度、ちゃんとしたモンスターものを書いてみたかったんです。

織守:潔いですよね。美少女の口元からちらっと牙が見えたとかじゃなくて、胸まで口が裂けるヒロイン。めちゃめちゃ怖いんだけど、耽美的な雰囲気が濃厚で。読んでいると情緒をぐちゃぐちゃにされる感じがあります。

あいまいな関係性と強い感情

芦花公園:織守先生はどちらかというとBLのイメージが強かったので、アンソロジーの『彼女。』『貴女。』で百合小説を読んだ時は、「百合もお好きなんだ」とちょっとびっくりした覚えがあります。

織守:もともと女の子を書くのは好きなんです。『霊感検定』というデビュー作を書いた時に編集さんが男の子同士の会話や関係性を褒めてくださって、「無理して女の子を出さなくていいですよ」とアドバイスしてくれたんですが、女の子もちゃんと書きたくて書いているんです(笑)。

芦花公園:読者サービスで美少女を書いていると思われた(笑)。

織守:男の子でも女の子でも、同性同士が書きやすいというのはあると思います。異性同士だとどうしても、恋愛というはっきりした関係性に落とし込まれがちじゃないですか。同性だとそこをフラットに読んでもらえる。恋愛にも友情にもなりうる関係性を描ける、という強みがBLや百合にはありますね。

芦花公園:確かに。男女ペアが出てくると「この二人はいつ付き合うんだ」という目で見られがちですよね。

織守:わたしは恋愛に限らず恋愛も含めてなんですが、強い感情を書くのが好きで、それがBLや百合に惹かれる理由でもあります。芦花公園さんもそういうタイプじゃないですか。

芦花公園:わたしは現実の人間関係は面倒くさいんですが、人間に対しては興味津々なんです。しかも良い人よりも嫌な人に興味がある(笑)。織守先生の作品を読んでいると、人間観察の鋭さに感心することが多くて、これは勝手に弁護士をされていた経験が生かされているんじゃないかと思っているんです。

織守:『みにくいふたり』だと、登場人物の見え方が途中で変わってきますよね。芦花公園さんの得意技ですけど、今回も見事に決まっていて、芦花公園作品をこれまで読んできて作風を知っている人でも、びっくりすると思う。

織守 きょうや『花束は毒』
芦花公園:織守先生の『花束は毒』もそうですよね。賢くて良い人が出てくる織守作品と思っているとショックを受ける。実は『明日もいっしょに帰りたい』の「いいよ。」も、そういう話じゃないかと思って警戒していたんです。主人公の真凜が一緒に住みたいといっても、恋人の清良はいいよと返事をしないじゃないですか。あ、これはめちゃくちゃ悲しい結末が待っているのかなと最後まで不安で。ハッピーエンドでほっとしました。

織守:同じようなことを円居挽さんも言ってました(笑)。「いつ落とされるんだ……」「あ、大丈夫だった。よかった」って。書いている時は全然意識していなかったんですけどね。

芦花公園:普通に考えたら短編集の最後にそんな話を置かないと思うんですが、でも『花束は毒』があったしなと(笑)。わたしが一番好きだったのは2話目の「友達未満」です。途中で仕事上のトラブルが発生するんですけど、それに対して主人公がきちんと対応するじゃないですか。そこがお仕事小説としての面白さに繋がっているし、「この主人公は信用できる」という感じを受けます。BLマンガだとよく仕事場でも18禁な行為に及んじゃいますけど……。

織守:仕事は仕事でちゃんとしようよって思いますね(笑)。

織守作品に通底する、丁寧なコミュニケーションのあり方

芦花公園:あと織守先生の作品はいつも食べ物が美味しそうですね。わたしも食べるのが好きなので、読んでいて共感しました。

織守:4話とも主人公がお弁当か手料理を作っていますね。意識してそうしたわけじゃなかったんですが……。

芦花公園:しかも織守先生が実際に食べて、美味しいと思ったものを登場させているんだろうなと。レシピ本を写したような描写ではなく、その場面にあった料理がちゃんと書かれているんですね。

織守:大体食べたことあるものを出していますね。狙ってそろえたわけじゃないのに、4話とも好きな人にお弁当や手料理を作るという場面があることに後から気づきました。たぶん、美味しいものを食べさせたいという行為が、自分にとっての愛情表現なんだろうなと……。

芦花公園:良いですね。芽衣なんて差し出しているのが血ですよ(笑)。

織守:でも恵君も他の血を吸いたいのに我慢したり、けなげでストイックですよ。深い愛情を感じます。

芦花公園:1話目の「椿と悠」はややミステリっぽいように感じました。すれ違っていた二人の感情が重なる瞬間があって、ああそうだったのかと。

織守:「椿と悠」は初めての百合小説だったので、主人公二人の関係性だけで読者を満足させられる自信がまだなかったんです。それでミステリっぽい手法を取り入れて、ストーリーに強度を持たせることにしました。書き下ろしの「変温動物な彼女」あたりになると、だいぶ自信がついてきて関係性だけで書き切っているんですけど。

芦花公園:なるほど。でも読んでいて一番正統派の百合っぽいなと感じたのも「椿と悠」なんです。正反対にいる二人が近づいて、恋愛関係になっていく過程が、百合の醍醐味かなと思っているので。

織守:ありがとうございます。椿と悠の二人は、初めて書いた百合ということもあって、自分でも一番思い入れがありますね。

芦花公園:「変温動物な彼女」もすごく好きなんです。自分がちゃんとした両親に育てられなかったことに対して、コンプレックスを抱いている珠璃に対して、湯川がそれはあなたのせいじゃない、助けてくれた人だけに感謝すればいい、って言うじゃないですか。それを受けて、珠璃も喫茶店のマスターとかいろんな人に親切にされてきたことにあらためて気づく。やり取りがすごくスマートで、織守先生の作品らしいなと思います。

織守:コミュニケーションを取るのは大事だなと常々思っているので、分かり合えるまで言葉を尽くすという傾向はありますね。〝ほうれんそう〟は仕事でも恋愛でも必要(笑)。

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