宮﨑駿イラストの戦車模型専門誌『アーマーモデリング』異例の発売前重版へ 担当者に聞く、使用の背景

『アーマーモデリング』宮﨑駿表紙の背景

 戦車模型専門誌『月刊アーマーモデリング 5月号』(大日本絵画)が異例の売れ行きを見せている。4月12日に発売された同号は予約段階から品切れが確定。同誌編集長の佐藤ミナミ氏は10日に自身のXを更新し、発売前重版が行われたことを報告した。amazonやフリマアプリではプレミア価格での取引も行われているが、再販分が順次店頭に並ぶ予定だ。

 雑誌としては非常に珍しい発売前重版となったが、その理由は今回の表紙を宮﨑駿監督のイラストが飾っていることだろう。同号は第二次世界大戦中に活躍したドイツの戦車「IV号戦車」を特集したもので、宮﨑監督のイラストはまさにこの戦車をテーマにしている。油まみれの車体には豚の兵士たちがぎゅうぎゅう詰めに乗り込み、家財道具や銃器とともに美女の指揮官らしきキャラクターも描かれている。

 若いアニメファンにとってはスタジオジブリの新作と見間違える可能性もありそうなこの表紙だが、Xなどでは「懐かしい」「このシリーズ好きだった」「魅力が色褪せない」「今見てもカッコイイです」といった声も目立った。

 それもそのはず、このイラストはかつて月刊『アニメージュ』1994年3月号(徳間書店)の表紙用に描かれたものだからだ。

『アニメージュ』3月号は、宮﨑監督が連載していた漫画『風の谷のナウシカ』最終話が掲載された号でもある。ではなぜその号で『ナウシカ』ではなく「戦車」の表紙が使われたのか。宮﨑監督がイラストエッセイを不定期連載した『月刊モデルグラフィックス』の創刊号編集長で、『アーマーモデリング』前編集長でもある市村弘氏は、「『アニメージュ』編集部は『ナウシカ』の絵を求めていたのですが、宮﨑さんは“ナウシカはいまさら”と描こうとしなかった。そしてIV号戦車のイラストが上がってきて、編集部はもちろん読者も驚いた。当時の宮﨑さんの心境は、最新号に再掲された8コマ漫画で詳しく描かれています」と説明する。

『月刊アーマーモデリング 5月号』巻頭3ページの特集では、「宮﨑駿がIV号戦車を描いた理由」として『アニメージュ』に戦車が描かれた経緯が詳しく書かれている。

 宮﨑監督は『ナウシカ』最終回の脱稿時期と同時に、『モデルグラフィックス』でIV号戦車が活躍するエッセイ漫画『雑想ノート』の新作『ハンスの帰還』を執筆した。宮﨑監督自身も「去り行く者に表紙がいるか」「そもそも表紙というのは未来への指向であるべき」と漫画内で記しており、表紙には終わった『ナウシカ』ではなく、次の作品への意欲が込められていた。

「IV号戦車」は、第二次世界大戦中に改造進化を重ね、開戦から終戦まであらゆる戦場に投入された”悲運”ともされるドイツ軍の戦車だ。

「地味ながらもミリタリーファンの間では根強い人気がある戦車で、零戦など、その時々で興味の対象が変わる宮﨑さんもまたのめりこんだ。今回の『アーマーモデリング』でIV号戦車特集を作るにあたり、『アニメージュ』のイラストをすぐに思い出しスタジオジブリに問い合わせました。30年前の原画ですから保管場所が分からないと返答があったのですが、翌朝見つかったと連絡いただき無事掲載に至ったのです」(市村氏)

 アニメファン、ナウシカファン、そして戦車ファンまでも驚かせたイラストが、約30年後に再び「戦車模型誌の表紙」として甦った。描かれるアイテムや筆の運びの細かい部分まで目を凝らして見たくなるイラストであり、時代を超えて読者を魅了する一枚であることは今回の発売前重版が如実に語っている。

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