大友克洋『浦沢直樹の漫勉neo』で垣間見えた作家性と人間らしさ 代表作『童夢』の映画的な画作りを解剖

『漫勉』大友克洋と浦沢直樹がトーク

対談で垣間見えた巨匠・大友克洋の人間性「呪術をこめている」

 その最たるものが団地の上空で超能力者が戦う見開きの場面だ。ここで浦沢は、長い糸を引っ張って団地のパースを確認したという大友の有名な話を本人に確認するのだが、大友は複数のパースの消失点をつなぐと円になり、これはカメラのレンズと同じなのだと悟ったそうだ。この説明は目から鱗で、パースと消失点の意味をはじめて理解できた。

 また、浦沢が当時、大友の線を真似たという話をした後、線の本数を分散させた集中線や壁の汚れといった大友のペンタッチを嬉しそうに再現する場面は、映像番組としてとても見応えがあった。

 ちなみに大友は丸ペンを1号、2号、3号に分けて使用しており、背景を描くアシスタントが1号を使い、使い込んだものを2号、更に使い込んだ3号を大友が使用しているという。こういった技術的な話が盛りだくさんの『漫勉』だったが、技術の向こう側に大友の人間性が見え隠れする瞬間が何度かあった。

 超能力者の老人・チョウさんが登場する場面の生原稿を見た浦沢は、チョウさんの首に絡まっている無数のコードを描いた部分にホワイト(修正液)が使われていないことを発見し、興奮する。ホワイトを使わなかった理由について大友は「呪術をこめている」と答えている。その後、笑っていたためどこまで本気かはわからないが、自分の作品に対し常に引いた距離感で接している漫画家だと思っていたため、意外な答えだと感じた。

 同じことは『童夢』終盤の最大の見せ場と言える見開きで描かれたチョウさんの顔のアップに対する大友の発言にも感じた。

 無数の線のかけ合わせで描かれたペン画のような顔のアップを描く過程で大友は、親父や変な顔は楽しんで描いており「その人の人生を追体験している」ような気持ちになると語っている。これもキャラクターに対して感情移入する人だったのかと意外だった。

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