朝ドラ『あんぱん』で注目集まる、やなせたかし 思考の"原点"を理解するための3冊

朝ドラ『あんぱん』でも描かれる弟・千尋の存在
ほのぼのとしてユーモラスな文章で綴られる『ぼくは戦争は大きらい』でのやなせたかしの軍隊生活が、ドラマの『あんぱん』で描かれるとしたら、そこにどれくらい戦争を憎む気持ちが盛り込まれるかは分からない。ただ、弟の千尋がたどった運命を描くことで、やなせたかしの戦争への辛い記憶は伝わるだろう。ドラマにも第1話から登場している千尋は、弟だが叔父の家に養子に出されてそこで嫡男として育てられた。叔父に引き取られても書生部屋で暮らすやなせたかしとは扱いが違っていた。
そうした境遇に不満を抱きながらも千尋のことは大切に思い、やがて京都帝国大学法学部に進んだ千尋が、召集されて海軍中尉になり出征した先で戦死したことを、『ぼくは戦争は大きらい』で振り返っている。「ぼくはそんなつもりはなかったのですが、『アンパンマンのマーチ』が弟に捧げられたものと指摘する人もいます。それだけ、弟と最後の言葉を交わした記憶が深く残っていたのでしょう」。入営地の小倉で千尋と今生の別れをした場面が、ドラマ『あんぱん』でどう描かれるかが気になる。
弟への想いが込められた「アンパンマンのマーチ」
千尋については、『やなせたかし おとうとものがたり』(PHP研究所)という1冊の詩集の中で幼少期から青春期を経てその戦死を知り、墓前に参るまでが綴られている。詩と言っても評伝をわかりやすくしたような文体で、再婚して去った2人の母親への思いから、病弱だった千尋が厄除けの意味もこめて女の子の姿で育てられたこと、叔父の養子となり跡取りとなった千尋が兄を自由だと羨ましがったことが書かれている。お互いの人柄と一筋縄ではいかない心情が感じ取れる詩集だ。
詩は1977年に「ホームキンダー」という雑誌に連載されたもので、この中の「墓前で」という1編に、「いったい君は/何をしたかったのだろう/君のかわりにやるとすれば/ぼくは何をすればいいのだろう」という言葉が使われている。人生の意味を問うような言葉が、1988年に発表された「アンパンマンのマーチ」の中に書かれる「なんのために生まれてなにをして生きるのか」と重なる。ここからも、やなせたかしの千尋に対する忘れられない思いが伺える。やなせたかしの生き方や考え方にも戦争と共に千尋の存在が影響していたことも分かるだろう。























