朝ドラ『あんぱん』で注目集まる、やなせたかし 思考の"原点"を理解するための3冊

やなせたかし、思考の原点を探る3冊

やなせたかしが経験した「戦争」

「ぼくが最近怖いな、と思うのは、殺菌とか除菌がブームになって、ばい菌というだけで目の敵にして消毒してしまうことなんです」。エッセイ集の言葉を受けるようなこの文章掲載されているのは、やなせたかしが2013年10月に死去した直後に刊行された『ぼくは戦争は大きらい やなせたかしの平和への思い』(小学館)の「おしまいに」という後書きだ。

「なんだか、このところ世の中全体が嫌なものはみんなでやっつけてしまおう、というおかしな風潮になっているような気がしてなりません」。

 刊行から12年が過ぎた今、世界は憎しみの連鎖から来る争いが各地で繰り広げられている。その原因に「生き物の生存本能」を挙げながらも、やなせたかしは「人間は頭のいい生き物だから、なんとかできるのではないか、と思うのです」と希望を示している。何しろタイトルに『ぼくは戦争は大きらい』とあるくらいの本だ。戦争を厭う気持ちに溢れているのは当然だが、その本文を読むと理由も分かる。

 「昭和15年春、ぼくに召集令状が届きました」から始まる本文は、九州の小倉にある部隊に入営して訓練や軍務に励み、やがて中国大陸に出征してそこで終戦を迎えるまで何をしていたかが綴られている。台湾の対岸に当たる福州で米軍の上陸を迎え撃とうとして待機し続け、やがて上海近郊へと移動しそこで大きな戦闘もないまま終戦を迎えたやなせたかしの体験記には、同じ漫画家の水木しげるが従軍体験を元に描いた『総員玉砕せよ!』(講談社文庫)のような壮絶さはない。それでも、いつ戦闘になるかといった緊張感の中、理不尽に怒られ、襲撃を受けて周りに戦死者が出る状況に身を起き続けなければならない状況は、戦争を嫌いにするには十分だったようだ。

 入営時に地元の高知ではなく小倉に行かされたことで、高知から激戦地のフィリピンに出征して悲惨な目に遭わずに済んだ。幹部候補生になる試験で前夜に居眠りをしていたことがバレて下士官止まりだったことで、士官として最前線に送られる運命を避けられた。これを幸運として喜ぶだけでなく、不運の裏返しに過ぎないと戒めていたことも、不幸の連続に叩き込まれる戦争への嫌悪に繋がったのかもしれない。

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