とろサーモン久保田かずのぶ「自分で言ったことが現実になるのが怖い」挫折・離婚・炎上……自叙伝『慟哭の冠』に込めた思い

とろサーモン久保田の挫折・離婚・炎上

生きていてしんどい人に読んで欲しい

ーーそのM-1で自信をもって臨んだ2015年、16年は2年連続で準決勝で敗退。コンビとしてラストイヤーとなる17年に優勝しますが、前年と前々年とはなにが違ったのでしょう?

久保田 ほかの大会もそうなんですけど、たとえば絵画のコンクールがあったとして、キャンバスに描くというルールがあるんです。そこからはみ出して描いてはいけない。M-1も同じで、持ち時間が3分、準々決勝以上は4分だったり、物を持っていってボケてはダメとかルールがあって、そこからはみ出るのはルール違反になるんです。とろサーモンもそれに近いことがあったのかなと思います。漫才っぽく見えないとか。だから最後の年は漫才コントという、作文でいえばちゃんとタイトルと文章があるような見やすいパッケージにしたんです。そうしたら通ったんです。

ーーラストイヤーは、かなり計算して臨んだんですね。

久保田 たとえば15年間、憎んでいるやつがいて、こいつを仕留めるのにずっと力技でやっていたけどダメだった。それでラストチャンスになれば、人は冷静になるじゃないですか。今まではがむしゃらにやっていたけど、こいつは何時にどこに来るのか、どういう動きをするのか、冷静に考えてパッケージして仕留めるようにする。それがうまくいったんです。これが通らないわけがないと思っていたし、自信もありました。自分でできることの最大だったんです。

ーー最近では芸人による漫才論の出版が続き話題となっています。久保田さんは漫才論についてどう思われますか。

久保田 漫才論? そういうのマジで無理です。もう好きな人だけやってください。それをやっちゃうと誰もお笑いにならないし、よくないですよ。言い方が悪いですけど、映画のネタバレと一緒ですって。この人はこう考えてこうだから、こうじゃないかって。漫才でそれをやられると、あの人はこうだからこう持ってきてこう作るとか、それは冷めますよ。

ーー見ている人がみんな評論家になってしまいます。

久保田 そうです。料理人の美しさって、自分の料理を説明しないところでしょう。味について、なにも言わないのがいいんです。

ーー本書のあとがきで、「この本が出る頃は炎上しているかも」というような一文があってドキッとしました。まるでオンラインカジノ騒動を予言したかのようで。

久保田 こんなことになったから、ちょっとだけ書いておいたら面白いかなと付け足したんですけど。実はもっと怖いのが、書いていた最初の頃、「本が出る頃、俺は炎上して仕事がなくなっているかもしれないけどまぁいいや」と書いていたんです。それはあとで消したんですけど、完全に予言になっていました。

 こういうの多いんですよ。ラップバトルの番組で優勝したときも、コメントで「どうせ俺みたいなやつは誰かに暴言はいていなくなっている」みたいなことを言いましたし。自分で言ったことや書いたことが現実になるのが、すごく多いんです。今度、デスノートを書こうかと思っています。

ーー本書は芸人としてだけでなく、ひとりの人間の思いが詰まった一冊だと思います。久保田さんがこの本で伝えたかったことはなんでしょう?

久保田 今の時代、生きていてしんどいとか、自分がどこに向かっているのかわからないとか、迷いや不安を抱えている人は多いと思うんです。そういう人に読んでもらって、実はその状態が後で幸せになっていくチャンスなんだと、言うだけではなかなか伝わらないので、この本を読んでもらって、すてきな人生を送ってもらいたいという思いがあります。

ーー内容が素晴らしいので、広く知ってもらうためにぜひドラマや映画にもしてもらいたいです。

久保田 そうですね。品川ヒロシ監督には、ぜひ『慟哭の冠』を映画化してほしいと、お願いしますと言ってあります。品川さんはとりあえずパート1、第2弾は贅沢に大根仁監督や白石和彌監督にお願いしたいです。

■著者略歴
久保田かずのぶ(くぼた かずのぶ)
1979年9月29日生まれ、宮崎県出身。宮崎日大高校の同級生だった村田秀亮と2002年にお笑いコンビ「とろサーモン」を結成。2006年に第27回ABCお笑い新人グランプリ最優秀新人賞、2008年に第38回NHK上方漫才コンテスト最優秀賞を受賞。M-1グランプリでは9度の準決勝敗退を経て、ラストイヤーの17年に初めて決勝進出し優勝を果たした。

■書誌情報
書名:慟哭の冠
著者:久保田かずのぶ
発売日:2025年3月21日(金)※電子書籍同日配信
定価:1,760円(本体1,600円+税)
ISBN:9784041159477

chapter1 お笑いに勝ち負けはある
chapter2 Welcome to hel l Tokyo
chapter3 エイエンなんてあるわけない
chapter4 慟哭の冠
chapter5 思い立ったが吉日

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