G.I.S.M.のバイオレンスは“パフォーマンス”だった? 安田潤司監督 × ISHIYA『パンクス 青の時代』対談

安田「実はかなりクールで状況は見えていたはず」

ISHIYA:横山さんはカメラを回している時とプライベートでは、違いがありました?
安田:そんなにはないけれど、意識はしているはずだよね。もちろん熱くなって本能で暴れている部分はあっても、実はかなりクールで状況は見えていたはず。これまで表に出していなかった写真で、本の中でRANDY内田と笑っている1枚があったでしょう。電気グルーヴの石野卓球と楽屋で笑っていたり、あれも動画から切り出したもので、もちろんG.I.S.M.のビデオには入れないけれど、そういうシーンもあったんですよ。
SHIYA:いい写真が多かったですね。
安田:今回の本を作るにあたって、一緒にいた大坪が撮ったり、もちろん俺が撮ったものも多かったんだけれど、ずっと探していた萱場忍ちゃんというカメラマンと連絡が取れて。「安田くんがそういう本を出すなら協力するよ」と言って、ダンボール1箱分くらいのネガを送ってくれたんだよね。
ISHIYA:貴重な資料だ。
安田:その中で、珍しく俺が横山を撮っている姿が写っていたり。危ない現場だからあんまりカメラマンがいなかった。
ISHIYA:それにしてもすげぇ面白くて、朝に届いて夕方には読み終わってましたよ。安田監督らしく、文章の中に映像が見える感じもあって。
安田:そう言ってもらえるとありがたいなあ。でも、ISHIYAの場合は登場人物をみんな直接知っているから、というのも大きいだろうね。
ISHIYA:確かにもれなく全員知ってる(笑)。でも、何も知らない人が読んでも視点が明確で読みやすいと思うな。
安田:死ぬ前に書けてよかった(笑)。
ISHIYA:そうそう、俺も本を書いている時、話を聞ける人が死んでいることが増えていて、これはやべえなと。大袈裟じゃなく、この時代の出来事を記録として残しておかないことは世界にとって損失だと思うし、G.I.S.M.なんて一番残さないといけないから。世界中で読まれますよ、この本は。
安田:変な話なんだけれど、自分としては「今やりたいこと」が結構あって、そこに注力したいじゃないですか。その中でハタチの頃の話をするなんて、昔書いたラブレターを全国ロードショーされるようなものだから、ほぼ拷問だよね(笑)。いろんなバンドと関わる中で、例えばBRAHMANのTOSHI-LOWにも「あの時、どうだったんですか?」なんて聞かれたし、「ここに書いてあるから読んでください」という本ができればいいなと思ったのもあって。彼らがちゃんと考えて色々とやっていたんだということもわからない人がほとんどだと思うし、生き残ったもののミッションとして映像も残さなきゃいけないんだけど、対象がG.I.S.M.だけにかなりのエネルギーが必要で、他のことができなくなるから気軽にホイホイとはできないんだよね。
ISHIYA:表に出していない映像もまだまだあるでしょ?
安田:そう、細かくても味のある映像はまだいくらでもあって、自分が墓場に持っていっちゃいけないから、体が危ないと思ったら全部YouTubeにアップしようと思っていて(笑)。横山より俺が先に死んでいたとしても、それなら文句は言われないだろうと。
ISHIYA:何にしても、安田監督が書いてよかったと思う。横山さんが死んでしまって、変にイメージを壊したくないし、俺が書いたとしたらどうしても嫌な部分が出てしまうから。
安田:俺も今回の本を書くにあたって、G.I.S.M.もそうだけれど、ハナタラシにも他のバンドにもまずリスペクトがあって、失礼のないようにしたいと思ったし。もっと言えば、「ハードコア」という言葉をあまり使わないで、と出版社の人に伝えたんですよ。俺が言うと、それこそISHIYAみたいにシーンを引っ張っている人たちに失礼になるなって。「ハードコア」と言えば宣伝としてはわかりやすいんだけどね。
ISHIYA:スキャンダルのかたまりみたいな話のはずなのにちゃんとリスペクトを感じるのは、確かな腕だなあと思いましたよ(笑)。この世界を物語みたいに作り物で書くなんて無理だし、実際に体験した人だからこそのリアルな内容だし、その上でイメージを壊していないのが凄い。形として残って、これで後世に伝わっていくのでよかったなと。
安田:日本のハードコアシーンは、やっぱり横山が作った暴力的なイメージが強いと思う。それをISHIYAも含めて影響を受けた次の世代が、昇華させて発展させてきた部分があるしさ。
ISHIYA:それを見たことも、聴いたこともないくせにただ「怖い怖い」って。そりゃモヒカンで眉毛もないけどさ(笑)。
安田:最初期のハードコアは演奏も未熟なものだったけれど、今はすごく進化しているしね。
ISHIYA:そこにもG.I.S.M.の影響はありますよ。音楽的にもカッコよかった。
安田:今聴いてもカッコいいよね。こういう部分にフォーカスされるならいくらでもしゃべりたいんだけど、言えない話が多すぎるから、これくらいにしておこう(笑)。

■書誌情報
『パンクス 青の時代 『ちょっとの雨ならがまん』1980年代パンクシーンの記憶と記録』
著者:安田潤司
価格:2,860円
発売日:2025年2月7日
出版社:DU BOOKS
■イベント情報
『パンクス青の時代』発売記念
『ちょっとの雨ならがまん』『パンクス青の時代』上映&トークショー
OPEN 18:30 / START 19:30(END 21:30予定)
前売¥2,500 / 当日¥3,000(+drink)
前売券は3/19(水)20時よりLivePocketにて発売
※全席自由席でご入場は前売券の整理番号順となります。
【出演】安田潤司、ほか(ゲスト調整中)
【上映作品】
ちょっとの雨ならがまん(1984年 8mm 45分)
パンクス青の時代(1984年 8mm 5分)
YASUDA JUNJI WORKS(5分)
詳細はこちら:https://www.loft-prj.co.jp/schedule/loft9/312963