激しいパンクの響きには“優しさ”が込められているーーISHIYA『Laugh Til You Die 笑って死ねたら最高さ!』レビュー

島田一志の『Laugh Til You Die』評

 かつてTHE BLUE HEARTSの甲本ヒロトは、パンクロックのことを「やさしいから」好きだと歌った(※)。

※「パンク・ロック」THE BLUE HEARTS(作詞作曲・甲本ヒロト)

 80年代のパンクスの多くはこの歌詞に心から感動したものだが、本来は暴力的な音楽であるはずのパンクロックを、「やさしい」と表わす感覚は、一般的にはなかなか理解し難いものがあるだろう。

 しかし、先ごろ刊行されたISHIYAの『Laugh Til You Die 笑って死ねたら最高さ!』(blueprint)を読めば、そのパンクが持っている“優しさ”の一端に触れることができるかもしれない。 

 著者のISHIYAは、80年代末から現在にいたるまで、パンクの中でも最も過激なハードコアと呼ばれるジャンルのシーンを牽引してきたカリスマの1人であり、現在はDEATH SIDEとFORWARDという2つのバンドでボーカルを務めている。

ハードコアパンクバンドの目から見た海外のリアル

 『Laugh Til You Die 笑って死ねたら最高さ!』は、パンクは「単なる音楽ではなく生き方」だという著者が、頼れる仲間たちと出会い(時に別れ)、バンドを結成し、世界各地で精力的にライブをこなしていく――そんな熱い日々を描いた半自伝的エッセイである。

 訪れる先は、アメリカ、オーストラリア、韓国、カナダ、スウェーデン、チェコ、イギリス、イタリア、オーストリア、セルビア……。興味深いのはそうした多様な国々で、著者がじっさいに目にした“パンクの現場”のリアルな描写であり、とりわけ広大なアメリカのいくつかの都市では、倉庫や自宅の空きスペースでのGIGが日常的に行われているということに驚かされた。つまり、日本のような、専用のライブハウスが各地に点在しているという環境は恵まれているのだ。

 しかし、そういうDIY的な環境が普通にあるからこそ、かの地ではいまなお骨太なバンドが数多く生まれ続けている、という見方もできるだろう。改めていうまでもなく、高いスタジオ代を払っても1~2時間しか練習できない日本のバンドと、ガレージに機材を運び込みさえすれば、1日中音を出し続けることができるアメリカのバンドとでは、おのずと出す音の深みは違ってくるはずなのだ。

 ISHIYAたちは、そうした不慣れな環境にもすぐに順応し(というよりも、むしろ楽しみ)、そのせいか、行く先々での地元のバンドやパンクスからも歓迎される。むろん、その裏には、海外における根強い日本のハードコアパンクの人気と、同じジャンルの音楽を愛する者同士の連帯感もあるのだろう。

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