『呪術廻戦』なぜ乙骨憂太は五条悟のために命を賭けたのか 最終巻で描かれたエピローグの意味
五条を“解呪”しようとしていた乙骨
また乙骨と五条の関係は、別の視点から捉えることもできる。というのも2人はいずれも、“死者との関係に囚われていた”という共通点があるからだ。
前日譚で描かれた内容だが、当初の乙骨は交通事故で亡くなった幼馴染み・祈本里香が“特級過呪怨霊”としてとりついているという設定だった。しかしその後、実際には乙骨の側が呪いをかけていたことが判明。大切な人の死を受け入れることができず、無意識のうちに彼女を現世に繋ぎとめていたのだった。
これに対して五条は、夏油傑との過去に囚われ続けていた人物だ。かつて親友だった2人は、呪術高専時代に決別し、夏油は“非術師のいない世界”を作ろうとする呪詛師となった。この出来事が五条に与えた影響の大きさは計り知れない。それまで五条は自分だけが強くなることを意識し、自身の術式を磨き上げることに邁進していたが、一転して呪術高専の教師となり、すぐれた仲間を育てることに心血を注ぐようになった。
ポジティブな変化ではあるかもしれないが、この影響関係は一種の“呪い”だったと言うこともできるだろう。実際に五条は、最後まで“夏油に置いていかれた”という気持ちを振り払うことができていない。呪術総監部の抹殺を行ったのも、教え子たちのためという方便はあるものの、両親や非術師の村人を皆殺しにして“怪物”になった夏油に追いつくための手段だった。
すなわち、乙骨と五条はいずれも身近な人と呪い、呪われる関係に生きていた。しかし乙骨が祈本里香との関係を文字通り“解呪”したのに対して、五条は呪いから解放される機会を持たなかった。だからこそ乙骨は、強い決意をもって五条に寄り添おうとしたのではないだろうか。
その試みが実を結んだかどうかはともかくとして、単行本30巻に収録されたエピローグでは、2人の関係に1つの結末が与えられている。最終決戦の後、乙骨が五条家の当主代理になったことが明かされているのだ。数十年後、五条家の屋敷では乙骨の孫たちが五条の教え子であるパンダと邂逅を遂げており、孤独とはほど遠い賑やかな悲鳴が響き渡っていた。
メインストーリーの裏側で、綿密にその心理が描き出されていた乙骨と五条。2人の関係性については本編で描かれなかった部分も多いので、今後作者・芥見下々が何らかの形で補完してくれることにも期待したい。
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