競争激化する少年漫画界に生まれた“単純化できない”物語『竜送りのイサギ』令和の“王道漫画”となるか

 今も昔も、金字塔と呼べる少年漫画は単に冒険活劇や未知なる旅へ瞳を輝かせる少年たちを虜にするだけでなく、かつて少年少女だった大人たちも魅了してきた。そんな人気合戦が熾烈を極めるジャンルで、注目したい作品がある。小学館のWEB漫画サイト「サンデーうぇぶり」にて連載中の星野真箸『竜送りのイサギ』だ。

師匠を殺める物語は、一見「王道漫画」の系譜

 舞台となるのは、人々から神聖視されている生物である竜が宙を舞うヒムカの国。流刑地である陵獄島で罪人の子として生まれ、首打人(=首切りの役人、死刑執行人)として暮らす櫛灘イサギは、並外れた剣の才能を見いだされ「斬聖」と呼ばれていた。都の名将だったがとある一件で死罪を言い渡された須佐タツナミとの鍛練を経、イサギは成長していく。しかし、タツナミの死罪執行が言い渡され、師の首を自ら斬り落とす命を下される。

「………あのさ、今からでも逃げちゃわない……?」

 大粒の涙をこぼしながらも剣を振り下ろしたイサギは、彼の息子であるチエナミに出会う。彼とともに師が犯した重罪である「竜殺し」の真相を辿るために旅立ちを決意し、陵獄島に別れを告げる。

 師と慕う人物を自ら斬ることから始まる主人公の旅路。明確なストーリーの始点と成長譚の根拠付けは、まさに本作が王道大ヒット少年漫画の系譜を継ぐ作品であることを示唆している。

 加えて現代の少年漫画としての魅力を語るとするならば、それは「パーソナルな描写」を作品全体が帯びるテーマに収束させる力にあると考える。

「全より個」に焦点を当てる令和にフィットした構成

 本作では、登場人物たちが抱える罪や業が心理描写/行動理念を明確にさせ、物語を牽引している。そういった意味で、首打人である主人公に他の追随を許さぬ存在感があるのは王道少年漫画がそうあるべき重要なチャーム(魅力)だ。しかし本作は主人公だけでなく、どのキャラクターにおいても“個人的な物語”を付与させている点が、全より個の時代である令和にフィットしたシナリオ構成なのではないかと感じる。

 先述の通り、主人公イサギがタツナミという師を生い立ちからの運命により殺めるという業から物語が展開され、以降人を殺める善悪や正義の在り方に懐疑しながら物語が進んでいく。

 罪を犯した人間は無様に殺されて然るべきなのか。罪人を師や父のように慕っていた人間はどうなるのか。

 そうした生死の背景に存在するパーソナルな感情に焦点を当て、キャッチコピーの「魂を紡ぐ意義をここに問う、竜殺しの旅路。」がすべてを象徴する言葉となっていることが、本作の最も魅力たる部分なのだと感じる。

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