うんこブームから考える、人類との文化史「水」「紙」論争「小石」や「海綿」も……お尻は何で拭いてきた?

■高貴なお尻の拭き方とは?
フランス・ルネサンスを代表する人文主義者、作家、医師のフランソワ・ラブレーの著作『ガルガンチュワとパンタグリュエル』で、登場人物のガルガンチュワが「高貴なお尻の拭き方を発明した」と語る場面がある。ガルガンチュワは「小間使いのビロードのスカーフ」「マフラー」「サテンの頭巾の耳当て部分」「小姓の帽子」「弁護士の書類袋」「子牛の皮」「ひなどり」など様々なもので尻を拭いた末、「産毛におおわれたガチョウのひなに勝る尻拭き紙はない」と結論付けている。尻を拭くもの一つでこれだけ試行錯誤できる先人たちには敬意を払わざるを得ない。
現在、欧米先進諸国や日本などで主流のトイレットロールは、19世紀の後半にアメリカで生まれたものであり、尻を拭く道具としては新参者である。トイレットロールが普及する1930年代以前までは通販カタログのページをトイレットペーパー代わりにするのが一般的だった。
トイレットロール普及以前、田舎に住むアメリカ人はトウモロコシの芯を使うことが多かったという。エコである。1930年代になるとカタログ印刷用の紙がざらざらした吸水性のものから、光沢のあるつるつるした紙に取って変わられる。カタログが尻を拭くのに不適当な紙質に変わったことで、必然的にトイレットロールが尻を拭く手段として広がっていった。カタログ同様、別の用途で製紙されたものをトイレットペーパーに使った例として、新聞紙もありがちな例である。ミダス・デッケルス氏は少年時代の思い出として、切りそろえた古新聞がトイレのドアに紐でぶら下げられていたと回顧している。新聞紙トイレットペーパーが廃れた理由だが、紙質が硬く、痔の原因になる得ることが挙げられる。
水洗トイレ(WC/Water Closet)が本格的に登場するのは19世紀の後半の事であり、ロンドン万博で会場に設置されて有名になった。イギリスでは先だってジョン・ハリントンが16世紀に水洗トイレを発明しているが、普及しなかった。一か月に一回も風呂に入るほどの「綺麗好き」としてエリザベス一世が王座についていた時代である。衛生観念というソフト上の問題と、下水道が整備されていないというハード面の双方の問題があった。普及しないのは無理からぬことだろう。
19世紀後半に現代的な水洗トイレ発祥となったイギリスのロンドンでまず水洗トイレが富裕層の間に広がり、追って大規模な下水道が整備されることになる。19世紀後半はジョン・スノウやフローレンス・ナイチンゲールの活躍で、公衆衛生の概念が広がった時代でもあり、ソフト面も充実した時代である。前述のとおり時同じくして、海の向こうのアメリカでトイレットロールが生み出された時期でもある。ここに現代の先進諸国で主流になった現代的な正しいうんこの処理方法「水洗トイレでうんこをして流し、トイレットペーパーで拭く」が確立されたのである。(次回に続く)

























