『ドカ食いダイスキ!もちづきさん』なぜ大人気漫画に? 宣伝担当者が明かす、ヒットの仕組み

『もちづきさん』宣伝担当者インタビュー


――単行本1巻発売後は2週間で累計10万部を突破されたということで、傍目から見たら施策は大成功だったように感じます。成功の要因はどこにあると考えますか?

山下:全社一丸となって、面で繋ぐような企画を打ち出せたことが要因かなと感じます。例えば、先ほどの「ドカ盛りフェア」のペーパーアイテムは販売担当のアイディアですし、「LINEスタンプ」は編集部が主導となって企画していて、「カレーハウスCoCo壱番屋」さんとのコラボもタイアップを担当するコンテンツビジネス部が取りまとめてくれました。

 振り返ると、各部署が自分たちのできる範囲のなかで「これやったら面白いんじゃない?」という企画を模索していたように思います。その一つ一つの企画を、話題が事切れない感覚で繋げていけたのが一番大きいと思います。

――部署間の距離がかなり近いんですね。

山下:そうですね。先ほどの食品サンプルを作った時はどこからともなく社員が「何やるの?」集まってきて写真を撮ったり(笑)。常にみんなで応援するような空気感があります。

白泉社 宣伝広報部・宣伝課の山下葵氏

――会社全体のフットワークの軽さも成功要因の一つのように感じます。

山下:弊社は社員数が120人にも満たないので、ほぼ全員の顔と名前が一致します。小さな組織ゆえに距離が近いと言いますか、『もちづきさん』もそうでしたが、今話題になっている作品が自然と全部署に伝わるんです。そのおかげで上層部とも認知の差があまりないですし、自然と「仕掛けるならこの作品だよね」という空気感が全社に醸成されていく。もともとのフットワークの軽さもありますが、この弊社ならではの動きの取りやすさも大きな要因かなと思います。

作品にとって適切なプロモーションをしっかりと見極めたい

――その他の作品の宣伝業務についてもお聞かせください。SNS全盛の今、宣伝手法は刻々と変化していると思いますが、昨今はどんな手法が響きやすいと感じていますか?最近印象的だった施策などありましたら教えてください。

山下:「ヤングアニマル」はTikTokも運用しているのですが、TikTok上での投稿がバズって売れる”TikTok売れ”を実感することもあります。例えば『動物人間』(岡田卓也)などがそうですね。

――人間と動物が逆転したスリラー作品ですよね。実は私もTikTokをきっかけに本作を知り購入しました。

白泉社 宣伝広報部・宣伝課の山下葵氏

山下:そうなんですね。ありがとうございます。この売れ方はTikTokというプラットフォームがなければ起こり得なかった事象だなと興味深く感じています。一方で、TikTokは性表現に厳しいので紹介したくてもできない作品があり、悩み所です。また、他のプラットフォームにも言えることですが、規約変更によって運用自体を左右されてしまうデメリットもあります。

 SNSを活用した施策はそういった制限がある上に、投稿したら必ずバズるわけでもないですが、とにかく作品を知ってもらうためにマンガに触れられるチャネルを増やす……これが手軽にできるのはデジタルの強みだと思います。だからこそ、地道に試行錯誤を重ね、投稿を続けるスタンスは大切だと考えています。

――最後に宣伝担当としての今後の抱負や読者の方々への想いをうかがえますか。

山下:SNSを有効的に活用したいと思いつつ、作品にとってどのプロモーションが適切なのかをしっかりと見極めて宣伝していきたいです。例えば、『もちづきさん』はXでの話題性が重要ですが、すべての作品でXに全力投球すべきかと言われたら違うと思います。作品の持つ特性や読者層からマッチする手法を選びたいなと考えています。

 2025年は「ヤングアニマル」から『Sランクモンスターの《ベヒーモス》だけど、猫と間違われてエルフ娘の騎士として暮らしてます』『紫雲寺家の子供たち』『ロックは淑女の嗜みでして』の計3作品のアニメが放映予定なのですが、やっぱりアニメは作品の認知度を大きく上げるきっかけになるので、原作にも興味を持っていただけるよう尽力したいと思います。

 そして、『もちづきさん』はもちろん、各作品の感想やコメントをSNSでいただけるのは本当に嬉しいことです。きっと作家さんも大きな励みになっていると思います。投稿される方にとってはちょっとしたことかもしれませんが、受け取った側からすると百万馬力が湧いてくる想いですので、ぜひ感想やコメントをいただけるとありがたいです。

白泉社の打ち合わせブースには訪れた漫画家たちの落書きイラストが。

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