Dガンダムのガンプラ登場にファンなぜ驚愕? 背景にあるのは『模型情報』と漫画『ダブルフェイク』の存在
■80年代末期のオタクカルチャーの熱さ
しかし、バブルの絶頂期に向かう1988〜1989年に掲載された本作には、あの時代のオタクコンテンツ特有の高揚感やパワフルさが漂っているのも事実だ。戦闘中にも関わらず妙に軽妙なセリフのやり取りや、時代を感じるギャグの演出、やたらと緻密に描かれたディテール、作者による欄外の書き込みなどの要素は、今見るとなかなかチャーミング。パワフルな非軍人の主人公が「戦争なんてくだらねえぜ!」と叫びながら活躍する様子は、なんとなく後年の『マクロス7』を連想させるところもあるように思う。決してただ読みづらいだけのマンガではなく、あの当時の『模型情報』と先鋭化した80年代末期のオタクカルチャーの熱さや勢いを感じさせる作品でもあるのだ。
そんな作品の主役メカであるDガンダム。その特徴は、「アニメで動かすことを全く考えていないデザイン」にあるだろう。通常、モビルスーツのデザインはアニメで絵を動かすことを前提にしているため、線の数を調整して無理なく動かせるラインに収める必要がある。
しかし『模型情報』や『サイバーコミックス』に掲載されるメカには、そんな配慮をする必要がない。漫画家の意欲と画力があれば、理論上はどんなにディテールの細かいメカでも登場させることができる。そんな前提のもとで福地仁によってデザインされたDガンダムは、脛や腕部、腰などに露出したシリンダー、全身に配置されたスラスターのノズル、ガンダムの定型から微妙に崩れた頭部デザインなど、アニメには不向きであろう部分が満載。まさに「あの時期の『模型情報』らしいデザイン」が盛り込まれまくっているのである。
こういったディテール過多のデザインは、やはり立体になった時に威力を発揮する。35年以上昔のデザインにも関わらず、いざプラモデルになった姿を見せられるとそこまで古びて見えないのは、みっしりと詰め込まれたディテールと細身のプロポーションによるものではないだろうか。
一連の『模型情報』掲載作品に関しては、ライセンス面や設定についての扱い方が不明瞭なものも多い。『ガンダム』の舞台となった宇宙世紀の設定を引用しつつ、作家が自分のやりたいことをやりたいようにやった作品も多数掲載されていたため、どこまでがサンライズ・バンダイが認める「公式」のラインに含まれていて、どこからが『模型情報』独自の「俺ガンダム」的アレンジなのか判然としない機体や設定が多いのである。
これらの作品の多くが権利関係の管理が甘く、現在に比べるとマニアが好き勝手に活動できた80年代に作られたものであり、「俺が考えた最強の『ガンダム』」をメーカー発の情報誌に掲載しても「そういうもの」として受け取られていた時代だった。そういった作品を現代のバンダイがどう扱い、ガンダムシリーズの正史に組み込むかは微妙な問題をはらむが、Dガンダムはゲーム「SDガンダム GGENERATION-F」にも登場しており、さらに今回のキット化によって、ライセンサーによるお墨付きを得たと言えそうだ。
「Dガンダムとは何か」について書くだけでこれだけの文字数が必要なことから分かる通り、この時期に独自設定が立ち上げられた作品は総じてややこしい。だからこそ、ファンにとっては今回のキット化のニュースは衝撃的だったのである。微妙な立ち位置の作品に登場した微妙な機体がバンダイによって立体化されたわけで、その驚きは当然だろう。
しかし、このニュースは、今後のプラモデル展開が少し楽しみになる知らせでもある。なんせ、独自設定を持っているがゆえに立体化されていない「俺ガンダム」的メカは、まだまだたくさん存在しているのである。つまり、Dガンダムのキット化は「あれがOKなら、あのモビルスーツやこのメカもプラモデルになるのでは?」と、夢が膨らむニュースでもあるのだ。大友克洋がデザインした『GUNDAM Mission to the Rise』のガンダムとか、『フォー・ザ・バレル』のガンボーイ・ウィルバーとか、なんとかプラモデルにならないものだろうか。う〜ん、無理かな……。
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