必殺技はV字斬!? コミカライズで復刊の『機動戦士Vガンダム』シリアスなアニメ版とは異なる奔放さ

岩村俊哉、 矢立肇、富野由悠季 『新装版機動戦士Vガンダム(1) 』(KADOKAWA)

  岩村俊哉版『機動戦士Vガンダム』が11月25日に復刊されるという。連載当時小学一年生で、90年代前半そのままに育った世代の自分としては、見逃せないニュースである。

 『機動戦士Vガンダム』は、1993年に放送されたテレビアニメだ。テレビでのガンダム関連作品放送は、1987年の『ガンダムZZ』以来。『Vガンダム』はSDガンダム世代の子供達にも受け入れられることを目指した作品でもあり、メディアミックス的施策として男子向け幼年誌である『コミックボンボン』にてコミカライズ版が連載されていた。

  日本におけるロボットアニメと、そのコミカライズ/メディアミックスの歴史は古い。そもそも日本初の本格的30分テレビアニメである『鉄腕アトム』が漫画を原作としており、テレビアニメはその黎明期から「並行してコミックが刊行される」という形で放送された。その後も、例えば『マジンガーZ』では『週刊少年ジャンプ』と『テレビマガジン』に永井豪による漫画版が連載されるなど、「放送と並行したコミカライズ」は子供向けテレビアニメにおけるメディアミックスの基本パターンとなっていく。

やすだ ひろし、矢立肇、富野由悠季 『機動戦士ガンダム シルエットフォーミュラ91 』(KADOKAWA)

  岩村版『Vガンダム』も、その流れを汲んだ作品である。連載された『コミックボンボン』は80年代から90年代にかけてガンダム関連のコミックや情報が多数掲載された雑誌であり、久しぶりにテレビでガンダムが放送されるというタイミングで、若年層向けコミカライズが連載される場としてはうってつけだった。また、著者の岩村俊哉は、『Vガンダム』以前に『ガンダムマガジン』にて『νガンダム秘話 ネオ・ジオンの亡霊』が掲載されたり、映像を伴わないメディアミックス作品だった『機動戦士ガンダム シルエットフォーミュラ91』のコミカライズに参加したりと、当時のガンダムシリーズとは距離の近かった漫画家である。

  で、肝心のコミカライズ版『Vガンダム』の内容なのだが、その特徴が内容の自由奔放さである。現在のメディアミックス作品と比較すると圧倒的に自由。ほとんどやりたい放題といっていいフリーダムさだ。主要登場人物であるカテジナさんは出てこないし、ザンスカール帝国のエースパイロットチーム「サンダーインパルス」のメンバーの名前は「セナ」と「シューマッハ」と「プロスト」だ。単行本未収録エピソードに出てくる敵パイロットの名前は「ギンザエフ大尉」だし、主人公ウッソはやたらと熱血な方向にチューンされているし、Vガンダムの必殺技が「V字斬」だ。アニメ版と同じなのはタイトルとモビルスーツの見た目くらいで、ストーリーも大きく異なる。アニメの『Vガンダム』の内容を知っている人なら、面食らうこと必至である。

岩村 俊哉、矢立肇、富野由悠季『新装版機動戦士Vガンダム(2) 』(KADOKAWA)

 こういった内容になった理由は、色々と想像できないでもない。まず第一に、アニメの『Vガンダム』の内容はかなり暗く複雑で、到底子供向けとは言い難い。さすがに富野監督の作品だけあって1話に一度はしっかりと戦闘シーンがあり、ガンダムが戦うシーンは当時小学一年生だった自分も楽しく見ていたのだけど、ストーリーの詳細や映像に込められたニュアンスをちゃんと理解できたのは後から改めて通して見た時である。子供向けとは言い難い『Vガンダム』をそのままコミカライズしても、『ボンボン』読者には理解が難しかっただろう。

 さらにいえば、当時の幼年誌でのガンダムシリーズのコミカライズは、基本的に放送とタイミングをそろえていた。つまり1993年の4月からの『Vガンダム』放送と同時に、1年間にわたって連載されるのである。『コミックボンボン』は月刊誌であり、連載期間が1年と決まっているということは、全部で12話しか掲載できない。この少ないページ数の中で、『Vガンダム』本編の複雑怪奇で情報量の多いストーリーを語り切るのは、おそらく不可能である。幼年誌向けに内容を調整する中で、この連載フォーマットに合わせたストーリーの刈り取りと大胆な組み替えが行われたであろうことは、想像に難くない。

 その結果として誕生した岩村版『Vガンダム』は、子供向けコミカライズならではの破天荒さに満ちている。シリアスなアニメの『Vガンダム』と比較するとグッとギャグテイストが濃くなり、ストーリーも単純明快。『騎士ガンダム』からのパロディ要素を盛り込んだりしつつ、複雑な要素を切り落としてテンポよく読めるようになっている。

 また、アニメ版からひろえる要素は極力ひろおうという姿勢も見え隠れする。特に戦闘シーンに関しては子供向けにわかりやすくしつつ、「上半身と下半身を次々に交換して戦う可変モビルスーツ」であるVガンダムのギミックを生かした内容もしばしば見られる。改めて読むと、「Vガンダムというモビルスーツの面白さをちゃんと表現したい」という気持ちが伝わってくるのだ。

 前述のように、自分は当時小学一年生の『ボンボン』読者だったのだけど、このコミック版『Vガンダム』はけっこう楽しみに読んでいた記憶がある。アニメの『Vガンダム』は随所に散りばめられたミリタリー的な要素(Vガンダムが合体する際に信号弾を打ち上げたり、森の中を走り回りながらロケット弾を積んだワッパでモビルスーツに応戦するところなど)が好きで、そっちはそっちで食い入るように見ていたが、コミック版は明確に別物として読んでいた。今見ると「やりすぎなのでは……?」「これが許されたの……?」という疑問も湧いてくる内容だが、当時の子供はさほど気にせずに面白く読んでいたのではないだろうか。

『機動武闘伝Gガンダム ドモン・カッシュ&マスター・アジア』(ぴあ)

 そんな平成前期における子供向けコミカライズのワイルドさを味わえる岩村版『Vガンダム』。『Vガンダム』の翌年に放送された『機動武闘伝Gガンダム』からはコミカライズ担当の漫画家がときた洸一になったため、このテイストを味わえたのは1993年の一年間だけ。そういった意味でも、貴重な作品である。ネット(の一部)では散々擦り倒された作品ではあるが、未読の方や若いガンダムファンにはぜひ一読をおすすめしたい。「ガンダムの公式コミカライズって、こんなに自由でいいのかよ……!」と驚くような読書体験が、あなたを待っているはずだ。

 

 

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