上白石萌音「朗読だと文章をより深く味わえる」初エッセイ『いろいろ』Audible版インタビューで聞く本の魅力

上白石萌音が語る、朗読の魅力

私にとって本は、心の着火剤であり氷嚢です

――以前、好きな作家として伊坂幸太郎さんや原田マハさん、さくらももこさん、くどうれいんさんを挙げていました。最近のお気に入りの作家は?

上白石:最近は女性エッセイストや演出家の本を読んでいます。幸田文さんや向田邦子さん、古賀及子さんが好きです。特に古賀さんの『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』(素粒社)は素晴らしくて、刊行されているご著書3冊をすべて読んでしまいました。

 他によかったものだと、「バッタ博士」として知られる前野ウルド浩太郎さんの『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社)。笑いながら読んでいましたが、最後は号泣しました。これに触れなければバッタについて知ることはなかったと思います。前野さんの人生を賭けた情熱をお裾分けしてもらえる、読書体験の旨味が詰まった作品で、とても楽しめました。

――読書体験で感動を得ることの魅力について、もう少し聞かせていただけますか。

上白石:幸田さんや向田さんの本を読むと「こんな時代だったんだ」「こんなことがあったのか」と感じることがたくさんあります。でも一方で「今と同じだ」と気付くこともあるんです。特に戦時中の話などは、今とは暮らしが違いますけれど、その中にも「変わらないものがある」と気付くことができるのが嬉しい。名文筆家は、その普遍的な魅力をさらに膨らませている。そういう方々の本を読むと、人生のロールモデルが増えていくんです。「こういう風に生きたい」とか「こう考える人になりたい」と憧れる存在を見つけていくことは、生きることへのモチベーションを高めます。彼女たちが紆余曲折を経て到達した思想に、本を読むだけで触れられるなんて、こんなにお得な体験は他にありません。

――なるほど。本から人生のロールモデルを学んでいるんですね。

上白石:もちろん読書が苦手な方の気持ちもわかるんです。私もぜんぜん頭に入ってこない本があるので(笑)。でも、それは本が悪いわけでも自分が悪いわけでもなく、ただ相性が良くないだけだと思います。自分に合う本は必ずあるはずですから、読書自体を諦めないでほしいです。自分にとって良い本と出会うには、「数打てば当たる」みたいな試し方がいいと思います。

――昨今は活字離れが進んでいるとは言われるものの、実際には多くの方がネット記事やSNSの文章に触れていると思います。本を読む体験と、デジタルメディアで文字に触れることの違いをどう捉えていますか。

上白石:かける時間が全然違うと思います。何日もかけて1冊の本を読む経験は、ネットではなかなか得られません。また、本ならではの入り込みやすさも私は好きです。気に入った本を開くだけで、すぐに文章の世界に戻れるのは大きな魅力です。その本を読んでいる期間は、現実で違うことをしていても、ずっとその世界の物語が待っていてくれる。それが心の安定材料になります。私にとって本は、心の着火剤であり氷嚢です。本によって自分の心の温度を平熱に保てたりもします。

――電子書籍と紙の本では、どちらを読んでいますか。

上白石:実は私、電子書籍に手が伸びない人間なんです。やっぱり紙をめくりながら「これだけ読んだ」とページを目視して読み進める方が安心。あとは本棚にモノとして読み終えたものが並んでいるのは、アルバムを見ているような感覚になります。あふれかえった本棚を見ながら、「わたしはこれから先も紙の本を読んでいくのだろうな」と感じています。

――Audible版の『いろいろ』はどんなふうに聴いてほしいですか?

上白石:紙の本が好きな人には、原書にも触れていただいた上で、答え合わせのような感じで聞いてもらえると、エッセイをより深く味わっていただけるのではないかと思います。Audibleは人に寄り添ってくれるコンテンツなので、色々な事情で本を読むのが難しい方にもお勧めです。何か楽しいことをしながら聴いてもらえたら嬉しいです。大きな事件が起きたり、ドラマティックな抑揚があったりする内容ではないので、生活のBGMにも合うかもしれません。

■関連情報
『いろいろ《特典付き版》』
https://www.audible.co.jp/pd/B0DJWT79YR

〈Audible『いろいろ』概要〉
たおやかでまっすぐな言葉と、ありのままの本音で紡いだ、 等身大の上白石萌音があふれる初のエッセイ集『いろいろ』。上白石萌音さんご本人の朗読によってついにオーディオブック化。何気ない日常の断片や去来する思い、情景などを綴った50篇におよぶエッセイや、初の創作となる掌編小説などを収録。俳優、歌手、ナレーターなど幅広く活躍し続ける上白石萌音さんの多彩な魅力と知られざる素顔・胸の内を知ることができる、ファンならずとも必聴のオーディオブック。《特典付き版》では、《通常版》のコンテンツに加えて、書籍未収載エッセイ「〆切る」の朗読と、上白石萌音さんと担当編集者Sによるフリートーク「上白石萌音の忘れられない“〆切り”よもやま話」を追加収録。

〈収録内容〉
はじめに/エッセイ:「踊る」「視る」「懐かしむ」「読みこむ」「採る」「完パケる」「灯す」「駆られる」「決まる」「学ぶ」「読み上げる」「歩く」「断ち切る」「揃える」「降る」「鳴らす」「交わす」「合わせる」「駄弁る」「歌う」「食べる」「挟む」「ふやける」「減らす」「愚痴る」「叩く」「赴く」「住む」「生きる」「立ち返る」「めくる」「失くす」「写る」「違える」「オフる」「入る」「観る」「並べる」「参る」「宿る」「始める」「料る」「走る」「応える」「おます」「触れる」「褒められる」「演じる」「撮る」「終わる」……全50篇/掌編小説「ほどける」/あとがきにかえて

〈特典付き版追加収録コンテンツ〉
エッセイ「〆切る」/フリートーク「上白石萌音の忘れられない“〆切り”よもやま話」

書籍版『いろいろ』
著者:上白石萌音
価格:1,980円
発売日:2021年9月25日
出版社:NHK出版

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