楳図かずお作品はなぜ長く広く愛され続けるのかーー漫画編集者が語る「独創性」と「普遍性」
ホラー漫画の第一人者で、タレントとしても活躍した楳図かずおさんが10月28日、死去していたことが伝えられた。業界内からも多くの哀悼の声が上がり、その偉才にあらためて注目が集まっている。
「楳図かずお」とは、どんな作家だったのか。漫画編集者で評論家の島田一志氏は、漫画史という文脈の中でも特異な存在だったと振り返る。
「楳図かずお先生が手塚治虫の影響で漫画家を志したことは有名ですが、あまりにも独創的な個性の持ち主で、漫画史の文脈として“○○系”という系譜に当てはめられない作家です。強いて言えば“楳図系”の始祖であり、後進に与えた影響は計り知れない。一例として、『富江』シリーズ等で知られる人気作家・伊藤潤二さんは楳図作品を読んで育っており、その強烈な個性が多くの人に受け入れられたのも、楳図さんが耕した土壌があったからこそ、と言えるかもしれません」
「恐怖と笑いは紙一重」とよく言うが、楳図さんはそれを漫画という形で世に知らしめた作家だったと、島田氏は続ける。それは単に、ホラー作品と同時に『まことちゃん』のようなギャグ漫画を描いていたからではないという。
「楳図先生の漫画は、一コマだけを切り抜けば笑ってしまうような、滑稽に見えるカットが多いんです。例えば『14歳』という作品で、人類が滅亡していく中でアメリカ大統領が<さらば、人類!!><お疲れさま!!>と叫ぶ有名なコマがあり、ここだけ切り取ればギャグにしか見えない。しかし、漫画の流れの中で読めば笑えるどころか異様な緊迫感があり、記憶に焼きつく。怖いものをいかにも怖そうに、おどろおどろしく描いただけではこのインパクトは出ません。直接的な影響があったかどうかはわかりませんが、同様の過剰な表現は、後進のホラー漫画だけでなく『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦)の緊迫したスタンドバトルや、『進撃の巨人』(諫山創)の不気味で恐ろしい巨人の描写にも見られます」
楳図さん自身、ホラー、ギャグ、SFに時代劇と幅広い作品を残してきただけに、想像以上に広いジャンルの作家に影響を与えているのかもしれない。そして、楳図作品のフォロワーは今後も増え続けるだろうと、島田氏は言う。
「楳図かずおと言えば奇天烈な人、というイメージもあると思いますが、これは演じられたキャラクターでもあり、実は勉強家で、時代性/社会性にもコミットしていた作家です。だからこそ、“ホラー”のなかでも人間の心の動きや家族のつながりがしっかり描かれており、広く長く読まれる普遍的な作品が多い。いまから楳図かずお作品を読もうと考えている方に、個人的におすすめするとしたら、『漂流教室』『14歳』『わたしは真悟』でしょうか。いずれも科学文明に警鐘を鳴らした作品で、楳図先生がかつて予想した未来の恐怖に、いまリアリティが生まれている。いまこそあらためて読まれるべき作品群だと思います」
SNSに溢れる追悼のポストを見ても、どれだけ愛されていたかが伝わる楳図かずおさん。ご冥福をお祈りしつつ、多くの人々を怖がらせ、笑わせてきた名作たちにあらためて触れたいところだ。