三浦しをん、万城目学を輩出した著作権エージェント「ボイルドエッグズ」が築いたものーー村上達朗氏の訃報に寄せて

 村上氏はそうした状況を早い段階から想定し、作家のエージェントとして交渉なども請け負う役割を担ってきた。そこから少なくない人気作家が登場してきたことが、エージェントの価値を大勢に知らしめたと言える。アップルシード・エージェンシーのような大手の作家エージェント会社が活動し、出版界に新しい才能を送り込んでいる状況にも繋がっていると言える。

 主要メディアがこぞって村上氏の訃報を伝えた背景には、こうした日本の出版界であり映像化も含めたエンターテインメント界の変化と発展に、少なくない貢献をしたことにあるからだ。

 ボイルドエッグズは現在も契約作家を抱えて活動している。そこには15歳の時に『探偵はぼっちじゃない』でボイルドエッグズ新人賞を受賞し、最近も『八秒で跳べ』を刊行した坪田侑也や、『シャガクに訊け!』『いいえ私は幻の女』の大石大、『ドールハウスの惨劇』『怪物のゆりかご』の遠坂八重といった有力作家もいる。

 25年近い活動の中で、ボイルドエッグズからデビューしながらその後、活動が途絶えた作家もいる。誰もが順風満帆の中を走り続けてこられた訳ではない。契約を終えて巣立っていった作家も多く、その度に次の作家を発掘して育て、送り出す必要もあった。ただ、編集者時代に面倒を見て、売れっ子になった作家を抱え続けるよりも、眠っている才能を見つけ送り出す方にこそ意義を見出していたのかもしれない。そうやって見出され、蒔かれた種がこれから、エージェントという仕組みともどもどのように芽吹き、育っていくかを見守りたい。

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