人気漫画家・洋介犬「トーンは“貼る”から“塗る”になったらしい」デジタル化で漫画業界用語にも変化?
■トーンは“貼る”のではなく“塗る”もの
現代の漫画家の多くはデジタルの環境で漫画を制作している。一説によれば、漫画家の約9割がデジタルで制作しており、昔ながらの紙にペンで描く完全アナログは1割程度といわれている。また、ペン入れまではアナログだが、トーンやベタはデジタルにするなどのハイブリッド型の漫画家もみられる。
漫画家にとって大変な工程のひとつが、トーンを貼る仕上げの作業である。少年漫画ではトーンを貼る場面が少なめだが、少女漫画はとにかくトーンを多用する。従来はカッターを使って切り、手作業で貼っていたのだが、デジタルならワンクリックで貼ることができ、とにかく楽になっている。
ホラー漫画の『メメ』のほか、『反逆コメンテーターエンドウさん』のような社会風刺漫画も多く手がける人気漫画家の洋介犬は、日本漫画家協会の参与でもあり、漫画業界全般の事情に詳しい。そんな洋介犬が、デジタルの普及によって漫画の業界用語も変化しつつあると指摘する。
「若手の作家の方が、トーンを“塗る”と言っていたのです。これには驚きました。以前ならトーンは“貼る”もので、“塗る”のはベタです。筆ペンやマジックを使って黒く塗りつぶしていましたからね。ところが、デジタルならベタもトーンもワンクリックで完了します。確かに“塗る”という感覚に近いのだと思います」
■地方で創作する漫画家が増えている
洋介犬によると、「集中線やカケアミを自分で手描きしたことがない若手も多い」とのことだ。以前なら、集中線は定規を使って1本1本手で描き、カケアミも黙々とペンで描いていたものである。やがてそれらをプリントしたトーンが出現するようになり、今ではデジタルの素材としてソフトに入っている。そして、ワンクリックで使うことができるのだ。
20代より若い漫画家は、紙に漫画を描いた経験がない人も増えている。やがて、トーンを“貼る”という言葉が死語化してしまい、“貼る”作業もロストテクノロジーになってしまうのだろうか。それとも、アナログが再注目され、盛り返してくる可能性もないとはいえない。洋介犬は漫画界の未来をこう語る。
「デジタルの進化により、漫画家を取り巻く環境は大きく変化しつつあり、以前の常識が通用しなくなっています。以前なら、『東京にいないと漫画家はできない』と言われたものですが、今では地方在住のまま漫画を描く漫画家も普通にいます。10年後、漫画を取り巻く専門用語、そして環境は様変わりしているかもしれませんね」
【写真】洋介犬の人気漫画『反逆コメンテーターエンドウさん』を試し読み