洋介犬の真骨頂 風刺とホラーをミックスした『悪魔の論破』は現代の「読むワクチン」だ

洋介犬『悪魔の論破』は読むワクチンだ!

 現在、各誌で7本の連載を抱えている漫画家・洋介犬は、これまでにホラー漫画から風刺漫画まで多岐にわたるジャンルを手掛けてきた多作な作家である。そんな同氏が、自身で集大成と語る『悪魔の論破』が、小学館の『やわらかスピリッツ』で連載が始まり、洋介犬から、コメントをいただいた。

 「これまで風刺漫画とホラー漫画が、僕の中での2大ジャンルです。幸いにも、それぞれに大きな支持を得ることができました。今回の『悪魔の論破』は、その2本の大きな血筋の結合体です。ぜひ、その集大成特盛コミックをお楽しみください」

 今回の作品は、題して“論破ホラー”である。洋介犬の従来のホラーの作風に、『反逆コメンテーターエンドウさん』で培った風刺漫画のエッセンスが豊富に盛り込まれている。漫画の原点は風刺であり、社会問題を痛快に、時には毒を交えながら描くのは漫画ならではの表現である。洋介犬はもっとも王道らしい漫画家といえるかもしれない。

 ストーリーを紹介しよう。「特別でありたい」と願う平凡な女子高生・蝉庵カラが、カルト教団の元“神様”にして悪魔に憑依されているという、「特別の塊」のクラスメイト・降雛初と出会うところから話が始まる。

 ところが、初に取り憑いた“パヴズ”は不可思議な言葉の力を司る悪魔だったのである。パヴズは、自らの正しさを過信し、他者を攻撃するモンスターと化した人々をことごとく論破し、彼らの世界観を根底から覆していく。悪魔が吐く過激な「正論」は、病んだ現代人を救うのか。それとも、更なる奈落へと突き落とすのだろうか。――というのが本作のテーマでもある。

 身構えそうな重いテーマを扱っているものの、洋介犬はエンターテイメントとして昇華しているため、サクサクと読み進められるはずだ。とりわけ、TwitterやSNSでたびたび扱われる「言葉」や「宗教」「詐欺」の問題など、ネット民にはグサッと刺さる話題が随所に盛り込まれている。そして、洋介犬が長らく興味を抱いてきたというホラーのエッセンスである「憑依」が、本作の軸になっている。

 「かねてから“憑依”には大きな魅力を感じていました。憑依を扱った代表作である映画『エクソシスト』に大きなインスピレーションとリスペクトを込めたのが、この『悪魔の論破』です」と洋介犬が言うように、純粋にホラー漫画としても楽しめる。長年、洋介犬の作品を読み続けてきたファンにも、今回の作品を機に作者を知った人も楽しめる作品だ。

 余談だが、筆者の友人に宗教団体や芸能事務所から「あなたは特別な存在だよ」と勧誘を受け、ここでは書けないような悲劇を体験した女性がいる。冒頭で勧誘を受ける蝉庵カラの姿が、見事に彼女とシンクロしてしまったのだが、同様の事例は少なくないのかもしれない。カラはいったいどんな展開に巻き込まれていくのか、見守っていきたい。

 それにしても、編集者が付けたというキャッチコピー“読むワクチン”とは、言い得て妙である。この作品を通じて様々な知識を得ておけば、現代社会に蔓延る問題から逃れられるのではと感じずにはいられない。

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