『もうじきたべられるぼく』絵本作家・はせがわゆうじインタビュー「世の中は勝手な選別で溢れている」

絵本作家・はせがわゆうじインタビュー

人にはそれぞれ土俵がある

――『チビ、にげろ!』では、追っ手の姿が描かれません。つかまえようとする網が飛び交うだけで、人間なのか、別の動物なのかもわからない。それは、安易に悪者のレッテルを貼らない……特定のイメージをつくらないようにするためでしょうか。

はせがわ:明確にしないようにはしていますね。『うさぽんのたび』という絵本でも、都会に来たうさぎのうさぽんが追いかけられるシーンを描きましたが、人間は全部シルエットにしました。先ほども言ったように、あんまり人間を描くことに興味がないのと、追いかける側がどうであるかは、あまり物語で重要ではないからかもしれません。

――「逃げる」というのも、はせがわさんの中にある、ひとつのテーマなんでしょうか。

はせがわ:どうでしょう。それも深くは考えていなくて。対象年齢も、あんまり考えてはいないんですよね。理想はやっぱり、子どもからお年寄りまで、みんなに読んでもらえること。若い頃、『ぼくを探しに』(シルヴァスタイン)という絵本が大好きだったのですが、自分には何かが足りないと思っている球体の「ぼく」が、転がりながら自分のかけらを探しにいく。子ども向けの顔をして大人に伝わる哲学がある。そういうものを、たぶん僕も描きたいんだと思います。

――哲学とはまた違いますが、プロフィールにある「のろまな人に優しい人が好きで、厳しい人が嫌い」というのがいいなと思いました。

はせがわ:最初は、何年に生まれて、どういう経歴で、というプロフィールを提案されたんですが、そんな堅苦しい情報はいらないんじゃないかな、と。僕は昔から何をやってものろいので、チャキチャキと急かしてくる人や、早口でまくしたててくる人が苦手なんですよ。その人がそのペースで生きるのは自由だけれど、「なんではっきり言わないの!」とか言われても困ってしまう。僕には僕のペースがありますからね。

――その、はせがわさんのゆったりとしたペースが、物語のなかにも流れていて、静かに読む人の心を打つのだと思います。

はせがわ:人にはそれぞれ土俵がある。他人の土俵にあがろうとするのではなく、まず自分の土俵にあがってもらえるように頑張らないと。だから僕も、絵本を読んでいただくために、あれこれ考えてみるわけです。

――『チビ、にげろ!』はどんな人に届いてほしいですか。

はせがわ:誰かに向けて、ということはとくに意識していないのですが、昔から僕の絵は、ちょっと心が弱りがちな人や、病を患っている人に響きやすいらしくて。『もうじきたべられるぼく』の感想をくださる方のなかにも、うつだという方が少なからずいて、読んで気がラクになったと言ってくれるんですね。多少は役に立てているんだと思うと、やっぱりうれしいし、これからも、読んでくれた方が少しでも心を安らげるようなものを描けたらいいなと思います。

■絵本情報
『もうじきたべられるぼく』
作者:はせがわゆうじ
価格:1,540円
発売日:2022年8月9日
出版社:中央公論新社

『チビ、にげろ! 8ぴきのだいだっそう』
作者:はせがわゆうじ
価格:1,650円
発売日:2024年8月7日
出版社:中央公論新社

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