「コンプレックスは加点法にしたほうが良い」 写真家・青山裕企が伝えたい、コンプレックスと共存する方法
コンプレックスは顔に集中している
ーー今回の被写体はコンプレックスを抱えた女性たちとのことですが、どうやって募集されたんですか?
青山:もともとモデルをしてくれている方にも「コンプレックスがあったら撮らせてもらえませんか」と声をかけて撮影しました。改めてコンプレックスは顔に集まってるなと知りました。今年この本を出せて良かったなと思ってるのは、みんながマスクを外し始めたタイミングだからです。ここ数年コロナ禍だったので、マスクで顔を隠して生活できたじゃないですか。多くの女性は助かったと思うんですよね。
ーーマスクを外すのに抵抗あった人も多かったですよね。
青山:マスクって顔の半分以上隠れちゃうんですよね。コンプレックスの中でも多い鼻と口が隠れるので助かってたと思うんですけど、やっぱりマスク外しても笑えるっていうのが大事だと思っているので、それが伝わるといいです。
ーー撮影するときは女性のコンプレックスを活かす方向で撮るんですか?
青山:いや、女の子にも利き顔(左右どちらか気に入っている方の顔の向きのこと)があるので、それを見つけて撮っていきます。姫乃さんは多分、右ですよね。
ーーあっ、私右です! すごい!
青山:前髪の分け目でわかるんですよ。右側が少し空いてますよね。利き顔から撮ると、あなたのことわかってますよって尊重してる感じがでるので、基本的には女の子が安心できる写真を撮ることを大事にしてます。撮影の時も前髪が割れてないか確認したり。
ーー男性の写真家で前髪を気にしてくれる人ってなかなかいないですよ。すごく女性に寄り添っていますね。
青山:寄り添ってるほどでもないですけど、安心して欲しい気持ちはあります。撮影って撮る側がいつでもシャッターチャンスを握っていて、モデルに対して不平等ですから。この本も10年前から構想して書いていたので、その間に撮影を通してモデルから得たものはたくさんあります。10年前に出版してたら、すごく薄っぺらい本になってたと思う。
ーー青山さんの根底に人のことを知りたいって気持ちがあるから、そういう風に思えるんでしょうね。
可愛いは作れるけど、美しくなるには?
ーー今回の本を読んで女性たちのコンプレックスはどう変わると思いますか?青山:考え方が180度変わって、絶望が希望になるってことはないと思うんですけど、ちょっとした変化は起こると思います。10年間、この本を書いて直してを繰り返す中で、時代も変わってきて、いろんな女性を撮影する中で、やっぱり変わらない部分もあったんですよね。それは女性の外見のコンプレックスって消し去ることは難しくても、共に生きていくものってことです。どううまく共存するかって話だと思うんですよね。
ーーでもコンプレックスってどうしても気になっちゃうんですよね。
青山:でもみんな人のコンプレックスを暴こうとか思ってないですから。僕はいわばコンプレックス研究家なので、この人のコンプレックスってどこだろうとか考えますけど、普通の人はわざわざ「コンプレックスはどこだろう」なんて考えないですよね。周りはあなたのコンプレックスのことなんて気にしてないですよ。
ーーたしかに、それはそうですね!
青山:コンプレックスを隠すことで可愛くなって、みんなと似ていくことに安心する子もいると思うんです。でもコンプレックスを隠すことで可愛くはなるけど、美しくはなりにくいと思う。これは本には書いてないことですけど、美しくなろうと思った時は、コンプレックスを隠したままでは難しいと思う。可愛さは服装とかポージングで作れるんですよ。でも美しさというものは、隠さないで自信を持ってありのままの姿を出すことによって醸し出されるような気がしています。
ーーその言葉は女性だけでなく、過去の青山さんにも向いている感じがします。
青山:これまでは過去の自分に向けて作品を作ってきましたが、今回は女性に向けているので、僕が対象ではないんですけど、自分が女性だったらって思うと、やっぱり彼女たちと同じように上手く笑えないかもなって思ったんです。そういう意味では、過去の自分にも向けている本かもしれません。
ーー文章って広く伝えようと思ったものよりも、誰かに向けて書いたもののほうが伝わったりするので、青山さん自身が対象になっていることによって、より女性にも広く届きそうですね。
青山:男性の方にも読んでもらえたら、女性が実はこんなことを考えていたのかってわかると思います。女性のために文章を書いたのは初めてだったので、自分にとっては新しい挑戦になりました。
ーー必要な人に広く届くことを願っています。
■情報
『コンプレックスは武器になる。』
著者:青山裕企
価格:1,540円
発売日 : 2024年7月18日
出版社 : 技術評論社