「コンプレックスは加点法にしたほうが良い」 写真家・青山裕企が伝えたい、コンプレックスと共存する方法

青山裕企『コンプレックスは武器になる。』
青山裕企『コンプレックスは武器になる。』(技術評論社)

 数多くの女性たちを撮影してきた写真家の青山裕企さんが、構想から10年に渡って女性のコンプレックスに寄り添って書き下ろした『コンプレックスは武器になる。』(技術評論社)を7月18日に出版します。(メイン写真=『コンプレックスは武器になる。』より)

 コンプレックスを抱えた女性たちに改めて取材をしながら撮影した写真も掲載されており、女性たちがコンプレックスと共存するために背中を押す一冊になっています。

 青山さん自身が抱えていたコンプレックスを始め、青山さんが見てきたモデルの女性たちが抱えているコンプレックス、そして読者の女性たちがどのようにコンプレックスと生きていったらよいのか、お話を伺いました。(姫乃たま)

自分の笑顔を「キモい」と思う女性たち

青山裕企さん

ーーコンプレックスの話って、コンプレックスがない人からなんか言われても受け入れられないですけど、『SCHOOLGIRL COMPLEX』で世に出た青山さんだからこそ、伝えられる言葉があったと思います。青山さんは女の子と喋れない期間が長かったですか?

青山裕企(以下、青山):長かったですね。重度の人見知りで、特に女性に対しては小中高とほとんど話せなかったです。嫌われたらどうしようとか、僕なんてカッコ悪いしとか、自意識過剰だったし自分にコンプレックスもありました。

ーー『SCHOOLGIRL COMPLEX』もそうですが『コンプレックスは武器になる。』も、喋れなかった時期の女の子に対しての気持ちが蓄積して完成したように感じました。

青山:それはあるかもしれないですね。僕にとって人を撮りたい気持ちって、人を知りたい気持ちに近いんです。どうしても外見を撮るものだから、自然と女性のコンプレックスと向き合うようになっていきました。

ーー学生時代以降も青山さん自身にコンプレックスはありましたか?

青山:ありました。でも実はセルフポートレートを通じて、自分を好きになったんです。写真を始めた時は人見知りだったので人が撮れなくて、セルフポートレートを撮っていたんですけど、写ってる自分が超つまんないんですよ(笑)。外見にも自信がないし、コンプレックスもいっぱいあって。でもとある時にジャンプして撮影したら、一生懸命跳んでる自分が面白くて、そこから自分を好きになりました。

ーー写真家でありながら、被写体としてコンプレックスを解消した過去があるんですね。

青山:そうですね。今回の本は女性に向けて書きましたけど、男性にもコンプレックスはあります。ただ、カメラを向けたときに女性のほうが圧倒的にコンプレックスを感じるんです。最初の頃はよくわかっていなかったので、僕がいいなって思う写真と、モデルがいいと思う写真が噛み合わないのが不思議だったんです。

ーーその現象はすごいわかります(笑)。

青山:それが顕著に表れるのが笑顔の写真なんです。モデルが自分の笑顔の写真を見て「キモい」って言ったのが衝撃でした。人の笑顔の写真を見て嫌だなって思わないじゃないですか。でも笑うと目が細くなるとか、人前で歯を見せたくないとか、笑顔っていろんなコンプレックスが詰まってて、それに気がついた時は「そんなバカな」と思いました。

『コンプレックスは武器になる。』より

ーー青山さんから見たら魅力的なのに、女性側とのギャップがあったんですね。今回の本を書こうと思ったきっかけにもなった出来事だと思います。

コンプレックスには加点法が使える

青山さんの愛用するカメラたち

ーー『コンプレックスは武器になる。』の中で印象的だったのが、女の子が笑った時に細くなった目のことを、青山さんが「虹の形をしている」って表現してて、ああ、本当に女の子が好きなんだなと思いました。

青山:もともと一重の子とか、笑った時に目がなくなるくらいの子が好みなので、よりそう感じたのかもしれません。

ーー世間的には二重整形の広告を推してて、電車にまで貼ってあるのはどうかと思います。

青山:ビフォーアフターで一重の時はしゅんとした顔で写ってたりしてね。僕は整形は全然否定してなくて、自信がついて人生にプラスになるならいいと思ってるんです。自信がなくて笑えないっていうのは考えちゃいますね。

ーー青山さんの作品を見てると、女の子に対して「全フェチ」だなって思います。女の子の全てを肯定してくれる感じというか。

青山:それはかなり自覚あります。人としての魅力って全てのパーツに散らばってるので、全フェチですね。僕は女性を見て素敵だな可愛いなって思うハードルがすごい低いので、魅力的なところを見つける癖があって、でもたくさん撮らせていただく中で、素敵だと思ったところがその人のコンプレックスだったりして、そのギャップが大きかったです。

ーーパーツの造形以外にも女の子が動いてると可愛いとか、存在自体を肯定してくれる印象があります。

青山:大前提として人が好きなんですよね。どうしても好みはあるんですけど、むしろ好みじゃない人が素敵な瞬間を撮れたりすると撮る側としてはグッと来るんです。コンプレックスは加点法にしたほうが良いです。たとえば好みの人って減点法になっていっちゃうんですけど、好みじゃない人は加点されていく。それと同じで自分のコンプレックスも、自分で減点していくと表現力が縮こまっていくけど、そこがいいと思ったら加点になっていくんですよね。

ーー青山さんの撮影で自分に加点できるモデルさんもたくさんいそうですね。

『コンプレックスは武器になる。』より

青山:撮る側も魔術師ではないので、撮影したからと言って、あなたが自分を好きになるようにできますとは言えないけど、でも加点法で言ったら5点くらいは上げられます。現場では本心からいろいろ褒めるし、もしかしたら笑顔が苦手かもしれないけど、私は素敵だと思いますよって伝えます。今回の本では『コンプレックスは武器になる。』って強い書き方をしたけれど、コンプレックスはチャームポイントですよね。それを見つけて伝えることはできます。

ーー青山さんは基本的に被写体の方に自分を好きになって欲しいと思って撮影してるんですね。

青山:本当にみんな自分のこと嫌いなんですよね(笑)。でも自信満々で「私、超可愛いんです!」みたいな人はメンタルが躁状態かもしれない。だから自信がないのが悪いというよりは、普通のことだと思います。今回の本もコンプレックスがある人を実際に撮ってるんですよ。取材してお話聞かせてもらったんですけど、圧倒的に幼少期に何気なく言われたことを気にしたまま育ってる人が多かったです。

ーーうわー、そうなんですね。たしかに子どもの頃、大人に言われたことって真実みたいに思っちゃいます。

青山:でもそれを防止するのは難しい。お正月とかで実家に集まった時に、ちょっと遠い親戚とかに言われてるんですよね。「太った?」とか「お姉ちゃんと比べて背が低いね」とか。本当にやめて欲しいですね。言葉が刃物だと思ってないんですよ。でも女の子には何十年も刺さってる。

ーー青山さんがタイムリープして助けに行きたいところですね。

青山:コンプレックス・ポリスになりたいです。

ーーコンプレックス・ポリス!

青山:誰かと比較されるのが一番良くないです。比較されるのはね……。

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