『THE FIRST SLAM DUNK』パロディは著作権侵害になる? 弁護士見解「構図が似ていても問題とはいえない」

『THE FIRST SLAM DUNK』ポスターの弁護士見解

──正直「選挙なんだから、こんなしょうもないパロディなんか作っていないで真面目にやってくれ」という気持ちにもなりますが、そこと著作権とは関係ないわけですね。

 そういう気持ちはわかります。ただ、選挙の際に自由に政策ビラを撒くというのは、憲法が保障する「表現の自由」のど真ん中なんですよ。憲法で明文で「表現の自由」が保障されているのは、「ビラやポスターで自由に意見を表明する権利を保障することは、社会にとっても個人にとっても非常に有益である」という理由もある。著作権法はその自由に対立する法律であり、そこには緊張関係があるんです。

──著作権は、表現の自由に対して一定の制限をかける権利ですもんね。

 そうです。表現の自由のうち、一定の部分は元の表現をした人の財産・人格権という性質があり、それを保護することもまた社会にとって有益なので侵害するのをやめましょう、やっていいことと悪いことがありますよ、という線引きをするのが著作権法です。だから、著作権法と表現の自由には対立関係がある。で、先ほど申し上げたように「選挙で撒かれる政策ビラ」というのは、原理原則として、その中でも最大限に表現の自由が尊重されなくてはならないものです。よほどのことがない限り、政策ビラの内容が制限されることはあってはならないと思います。

──それは間違いなくそうですね……。

 政策ビラに対して「この構図は著作権法に違反しているんじゃないか」というようないちゃもんをつけることが許されてしまったら、今回よりももっと穏当な場面でも一方的に制限が加えられる可能性が生じてしまう。そう考えると、「政策ビラに『THE FIRST SLAM DUNK』のキービジュアルのパロディが使われた」という点を取り上げて、著作権法をキーに大騒ぎするのは、あまり筋のいい話ではないと思います。元の作品に対するファンの愛情を政治利用する、著作権法を盾に政敵の政治活動に制限を加える、という手段の扉を開いてしまうことには慎重であるべきだと思います。今回のビラの内容や絵面にたいして「なんだこれ……」と思う気持ちはわかりますが。今回のビラが気に入らないならすべきことはまず候補者に投票しないことであり、それ以上の手段には慎重であるべきだと思います。

──確かに、著作権をとっかかりにして、まともな政治的批判が封じられてしまうことは避けたいですね。

 あと、これは弁護士としてというより、今回のビラについて個人的に思うこととして、案外このビラはパロディを用いたビラとして出来がいいのではないか、という点があります。確かに神経に触る部分があるのはわかりますし、自分も「なんだこりゃ」と思いましたが、一方で5人の初老の男性をちゃんと笑い物にできている、政治家自身が笑われに行ってる姿勢が見える、「なんだこりゃ」という強い印象は残るだけマシなんじゃないかとも思うんです。

──候補者は落選しましたが、話題になったという点ではある意味成功したビラだったのかもしれませんね。

  少なくとも、体を張っているのは事実ですし、政治家が人気作に乗っかった例としてはもっとセンスがなくてひどいものもありました。それに比べると、今回のビラは良くも悪くも目に留まりますし、見ている人の神経に障って心をザワつかせたという点では、ビラの役割を果たしたのではないかと思います。

 

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