営業利益6割強も……「民放テレビ局」決算で見えた“アニメ頼み”の収益構造 専門家に聞く現状と見通し

■配信ビジネスとの相性の関係も

──しかし、どうしてアニメ事業が民放各局の収益で存在感を持つようになったのでしょうか?

 まず、単純にアニメ作品の需要が増しているからだと思います。国内外でアニメに対する需要が大きくなっているから、当然売り上げも増える。昔に比べればアニメを見ること自体がずっと一般化しているから、それによる市場の拡大もあります。映画でもヒット作の多くがアニメですが、これはもう「子供の見るもの」というイメージがなくなっていて、特撮も洋画もアニメも全て横並びになっていることを示しています。「アニメである」ということに対して、特別な違いや意味があると誰も感じていないのではないでしょうか。あとは配信ビジネスとテレビ局の蓄積してきたノウハウの相性がいいという事情もあります。

──それはどういうことでしょうか?

 そもそも、アニメ作品の海外販売・配信権というのはかなり魅力的なもので、製作委員会の中でも取り合いになるような強力な権利です。ビデオソフトメーカーやなかにはスタジオ自身が配信権を持って作品を販売することもあります。

  ただ、日本のテレビ局というのは以前から番組を輸出する事業を行なっているので、海外への販売ネットワークやノウハウを蓄積しているんです。これは他のアニメ業界の企業に比べると圧倒的に強い部分です。実際に出資を増やしたことでテレビ局が海外番販を獲得している作品が増えていて、それを海外で売ることで利益が出ている。アニメスタジオが自分たちで権利をとって海外で番組を売るぞ、ということになっても、ちゃんと売ることが難しいんです。海外で売るための明確な窓口を持っているというのは、テレビ局の強みですね。

──なるほど……。ネット配信が主流になっている現在では、そのノウハウがあるというのは非常に重要ですね。

 ただ、現在の日本のテレビ局がアニメ頼みになっているかというと、そうでもないと思います。テレビ東京は例外ですが、他局に関していえば売り上げの中での存在感はまだそこまでではありません。ただ、今後の成長という部分ではアニメは見逃せないものになっていることも間違いありません。発表されている事業計画を見ると、各局とも主要戦略の中に「アニメ」という言葉が入っている。おそらく、放送収入が落ち込んでいる中で、大きく伸びる余地がアニメや配信しかないんだと思います。先ほどお話ししたように、世界で配信権が買われているというのもパッケージメーカーや放送局が力を入れた結果出た成果ですし、アニメに対する民放各局の期待感は大きいのではないでしょうか。

──今すでにアニメ頼みになっているというよりは、今後より大きな存在になっていく可能性が高いということですね。

 この状況はしばらく続くと思いますが、さらにもっともっと拡大していくかというと、そうとも限らないはずです。あらゆるメディア企業が「アニメです、海外進出です」と言っているので、そう言った企業間の競争が高まっているのが現在です。市場は拡大すると思いますが、その反面で勝てた事例とイマイチうまくいかなかった事例に大きく分かれるはず。みんながみんなハッピーということにはならない気がします。

──厳しいですね……!

 でも、成長産業ってだいたいそういうものですよね。大きく成長するときにワッと新規参入が集まって、成長が鈍化すればどんどん振り落とされて寡占化が強まっていく。この世の多くの産業の成長過程と同じようなことが、今後アニメ産業にも起こっていくと思います。

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